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2014/08/30の日記:The Premiere Vol.3 〜夏のオール新作初演コンサート〜(感想+α篇)

3週間お待たせしました。

本年9月9日付け記事「2014/08/30・31の日記:The Premiere Vol.3 〜夏のオール新作初演コンサート〜(出来事篇)」では触れなかった、各演目についての感想などを記します。


増井哲太郎 × CANTUS ANIMAE:混声合唱とピアノのための『平行世界、飛行ねこの沈黙』

CANTUS ANIMAEは、今回の出演団体、唯一せきが生演奏を見聞した経験のある合唱団。先に実演に接したのは、一昨年11月に富山で行われた第65回全日本合唱コンクール大学・職場・一般部門の全国大会であった。富山のコンクールに対する感想はこのブログには書かずじまいになってしまったが、同団については「ひとりひとり自立性が高く、いきいきした音楽を奏でる人たち」という印象を持っていた。その印象は今回も変わらず。ただ今回新たに感じたこととして、歌い手の活力でホールを満たすサウンドであるように聞こえた。

指揮者の雨森文也氏からは、せきが新潟ユース合唱団にいたとき、廣瀬量平作曲『海の詩』全曲と高田三郎作曲『水のいのち』より「雨」「海よ」を振っていただいた。『海の詩』では歌い手各人からの表現を引き出すアプローチで、『水のいのち』では作曲者のバックボーンに踏み込んだアプローチでリハーサルを進め、その御指導から多大なる感銘を受けた参加者も多かった。

このたびの『平行世界、飛行ねこの沈黙』は、実に瑞々しくファンタジックな楽曲・演奏だった。大学合唱団の定期演奏会最終ステージに好適な組曲であろう。終曲は、楽曲の全体像を見渡したうえで、いま自分が歌っている箇所およびパートが物語全体でどのような役割を担うか理解しながら演奏することが求められるように思った。

プレトークで作曲者が述べていたところでは、Aがつく通販サイトでテキストを探していたとき、装丁デザインで興味をそそられた詩集を見つけ、ネットで検索したらその作者ご自身のウェブサイト「宮岡絵美のHP 生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」で作品が公開されていることが分かり、読んだら「これだ!」と決めたとのこと。

終演後に法政大学アカデミー合唱団OB会ツイッターアカウントの中の人と盃を交わしたとき「大学合唱団は雨森氏をもっと指揮者に招聘すればいいのに」ということで意見が一致した。

余談その1。新潟ユース合唱団の演奏会後、雨森氏は打ち上げのみならず2次会にもご参加くださり、さまざまな団員とノンアルコールで(一滴も呑めないお身体ゆえ)語り合っておられ、ますますファンが増えた。

余談その2。前述の全日本合唱コンクール全国大会ロビーで雨森氏の近くを通ったので御挨拶申し上げようとしたら、当方を覚えておられない様子であった。ちょうど山本啓之氏らしき人と「脚どうしたの?」などと歓談しておられるときだったか。というわけで雨森氏を個人的に存じ上げているけれど、どこの馬の骨か分からない者から何か贈られても戸惑うだけであろうと思い、今回は差し入れの進呈を差し控えた。

余談その3。ピアニストの平林知子氏は、前述の全日本合唱コンクール全国大会ロビーで歓談する姿を見かけた。縦ノリで飛び跳ねるようにして喋るさまが印象に残った。


田中達也 × なにわコラリアーズ:男声合唱とピアノのための『シーラカンス日和』

詩に封じ込められた東京近郊の都会の喧騒やらユルさやらを、骨太な男声合唱サウンドで増幅させた組曲。和音やリズムの使い方は今どきだけど『青いメッセージ』『ことばあそびうた II』「ゆうやけの歌」あたりに慣れ親しんできた世代でも楽しんで歌えそう。違う角度から見ると、ビートルズ以降の感覚で書いたという荻久保和明作曲『季節へのまなざし』があり、次の世代に属する信長貴富作曲『新しい歌』があり、その系譜において新世代を切り開く曲ともいえよう。

アフタートークで作曲者が述べていたところでは、男声合唱は他の編成に比べると言葉が届きやすい演奏形態なので、その特性が生きる詩をと考え、水無田気流氏の詩集を選んだとのこと。

伊東恵司氏が田中作品を演奏するのは初めてのはず。だが、みなづきみのり名義で伊東氏が発表した詩のいくつかに田中氏が作曲していて、たぶんプロジェクト前から唯一接点のあった指揮者と作曲者であろう。

なにわコラリアーズの演奏は、録音では耳にしたことがあるが、実演は初めて。気合がみなぎりつつ緻密で、まさしく圧巻。この団のサウンドについていろいろ感じたところはあるけど整理がついていない。ここでは「生演奏でないと分からないこともあるのですね」とだけ記しておく。

ところで、田中達也氏は、拙サイト内「日本の絶版・未出版男声合唱曲」で今のところ唯一項目のある作曲家である。拙サイトで紹介している男声合唱作品には氏の公式サイト「Tanaka’s Factory」の「作品紹介」にない曲も多く、両者の記載を掛け合わせるとオリジナル男声合唱曲リストの完全版ができるはず。

田中氏は「にせあひる(@tsfactory)」と名乗ってツイッターをしており「あひるさん」(なぜか「にせ」が消失すること多し)の愛称で親しまれている。せきも時々ツイッターでやりとりをすることがある。当方からメンションを飛ばした回数は、三好草平氏(@HummingBird1979)安藤龍明氏(@scaffale_fonico)に次いで、現時点で3番目に多い。御連れ合いもツイッターにいらっしゃり、差し入れを進呈したら御本人のみならず令夫人からも礼状をいただいた。

田中氏は自作の音源をYouTubeチャンネル「Tanaka’s Factory」で公開している。そこで聴ける作品群に比べると『シーラカンス日和』はやや硬質な印象を受ける。テキストによるところが大きいのであろう。もっとも、氏のツイートに漂う洒脱さ・そこはかとないシュールさ、しばしば使われるオノマトペなどは、水無田氏の作風に通じるものがあるように感じられる。


三好真亜沙 × 女声アンサンブルJuri:女声合唱とピアノのための『冬が来た』

プレトークで作曲者が述べていたところでは、女声合唱に対して「きらきら・ふわふわしたサウンド」という先入観を抱いていて、それと真逆のテキストを求め、同時人の詩人を探したがピンとくるものがなかったところに、たまたま地元の図書館の企画展で巡り合った高村光太郎の詩がイメージにぴったりだったので取り上げることにしたとのこと。

そうして出来上がった組曲は、男声合唱を用いる作曲家が多いであろうサウンドを女声合唱で書いたという趣。曲想はまるきり異なるが、コンセプトとしては小林秀雄氏作曲の演奏会用女声合唱組曲『九州民謡によるコンポジション』に通じるところがあるように思う。もっとも男装的要素は皆無。冬の張りつめた空気感の裏に詩人の心象風景がほの見える音楽である。これが男声合唱だったら詩人が前面に出ちゃうのであろうな。

藤井宏樹氏のタクトによる演奏は、6日前の合唱団「弥彦」第33回コンサート以来。パンフレットに載っていたJuriのメンバーリストには、弥彦で見たお名前も何名かあった。

演奏は表情豊かで自律性が高いものであった。CANTUS ANIMAEと比較すると、あちらは放散型なのに対し、Juriは一極集中型アンサンブルのように見受けられる。


名田綾子 × 松原混声合唱団:混声合唱とピアノのための『いのち』

せきが名田氏のお名前を初めて認識したのは、2009年度に早稲田大学グリークラブで編曲者やピアニストとして共演したとき。もっとも氏がかかわった早稲グリの演奏はまだ残念ながら見聞したことがない。

ピアニストとしての名田氏の仕事で有名と思われるのは、東日本大震災から間もなく発表された、「つぶてソング」を作曲者・新実徳英氏が自ら歌ったYouTube動画の数々。ここで名田氏は「新進作曲家」と紹介されている。

つぶてソングから間もなく合唱界でも作編曲家としての名田氏に対する注目が高まり、現時点で「こどものための合唱曲集『おやつのうた 〜Sweets Suite〜』」の楽譜と編曲集6冊がカワイ出版から発売されている。

そんな名田氏にとって初めての混声合唱組曲は、何気ない日常の機微をひとこまひとこま描いたもの。鈴木憲夫氏や上田真樹氏の作品をぐっとカジュアルにしたかのような耳に親しみやすいサウンドは、中学生からシルバーコーラスまで幅広い層が魅かれること確実。終曲にハイトーンが使われるが、想いの高ぶりに伴うことが明確なので、絶叫や悲鳴みたいな無理さは感じられない。もっとも、譜面づらは耳で聞くよりも歯ごたえがありそうで、初演が自然に聴こえたのは松原混声合唱団の技量に負うところも大きいと思う。

テキストは、アンソロジー「じぶんのための子守歌」から選ばれたとのこと。この選集は昨年9月に出版されたものであるが、アフタートークで初演指揮者・清水敬一氏が紹介していたところでは、新旧とりまぜた詩作が収録されているようである。

アフタートークの終盤、清水氏は作曲者に「今、幸せですか?」と尋ねた。名田氏は唐突な質問に一瞬とまどったように見えたが「はい、幸せです」と答え、それを受けて清水氏は「幸せな人が作曲したのですから、歌った皆さんも幸せになれる合唱曲ですよ。だから皆さん出版譜を買いましょう」とまとめておられた。

前回書き忘れていたこと。他のステージで譜持ちの人はカバーをかけた譜面で歌っていたが、このステージだけカバーなしの出版譜を使っていた。


北川昇 × 出演合唱団による合同演奏:「花は咲く」

演奏会パンフレットで北川氏は「自分の個性が最も出る無伴奏でのアレンジにしてみました」と記しておられる。確かに一聴してすぐ北川サウンドと分かるが、原曲の持ち味と編曲者の持ち味が掛け合わされることにより高次の音楽性が溢れる編曲である。キーは原調のはず。女声合唱や男声合唱のヴァージョンを望む人も多いのでは。

大人数で初演されたが、規模の大小は問わず、少人数アンサンブルでも楽しめると思う。

どのパートにも主旋律を受け持つ箇所があるのも魅力の一つ。

終演後の席で、法政大学アカデミー合唱団OB会ツイッターアカウントの中の人が「北川さんと作曲者の菅野よう子さんって、おととし早稲グリの定演で共演していらっしゃるよね」とおっしゃり、つながりに気づいて驚いた。帰宅してから出版譜を見たら、作曲者の指揮で合唱団が「花は咲く」を歌う場に居合わせたことがきっかけで曲を知ったという話が記されていた。ライナーノーツでは固有名詞が伏せられているが、早稲田大学グリークラブ第60回定期演奏会のアンコールで間違いないと思われる。このとき北川氏は自作の『道程』指揮者として、菅野氏は自作の『Song of departure』指揮者として出演しておられた。どちらの組曲も拙サイト「日本の絶版・未出版男声合唱曲」に記載がある(もっとも『Song of departure』は後に出版された)。


十二分に堪能した。日本でトップレベルの合唱団が次々出る演奏会を聴く機会は貴重だし、全ステージ初演の演奏会も貴重だしということで、是非とも行きたいと念じていたが、足を運んでよかった。12月にリリースされる予定という当日のライブCDも(過去2回のと併せて)買うつもり。


末筆ながら、出演者・スタッフ・来場者の皆様、お疲れ様でした。このたび生まれた作品がたくさん演奏されますように。

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