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2015/05/04の日記:第64回東京六大学合唱連盟定期演奏会

大型連休に演奏会を3公演ハシゴしてきた、第3弾。この演奏会を聴くのは第60回六連以来。


今回はS券を購入。東京芸術劇場は全席指定で、割り当てられた座席はカミ手の端に近い1階H列34番。そんな場所なので指揮者がどう振っているかを横から観察しながら聴く形となった。

エール交歓

慶應、かっちりした演奏。

法政、新入生を混ぜて7名だか8名だかでの演奏。学年は分からないが、半音全音レベルで間違った高さの音を出しているメンバーがいる。OB六連では六大学のエールを全大学合同で歌うのが吉例で、自分も歌ったことがあるので、楽譜通りに演奏するとどんな音が鳴るべきかは承知しているのだ(本来は非常によくハモる編曲)。正直、この状況だったら昨年度定期演奏会や今回の単独ステージをキャンセルするのも仕方ないなと思ってしまった。どうにか体制を立て直して単独でのステージが持てるようになりますように。

早稲田、2番冒頭「あれ」と「見よ」の間で珍しく言い直しを入れてた。他にもそういう発語をした箇所があり、フレージングに注意を払う学生指揮者なのかなという印象を持った。

立教、「theをザと発音するべからず。ダで発音せよ」というのが代々受け継がれている鉄則のはずなのに、今年はザの発音が聞こえた。詰めが甘いと言わざるを得ない。また、音節初めの子音から音高を意識していないのか、母音になって音程がずり上がった箇所があった。単独ステージが気がかり。

東大、まともなウ母音を初めて聞いたような気がする。例えば「学府」をガクィフィとガキュヒュの中間みたいな発音で歌う演奏ばかりだったけど、今年はちゃんとガクフと聞こえた。もちろんハーモニーもアンサンブルも申し分なし。

明治、トップテノールの発声に不安要素あり。パンフレットを見たら、高声パートから順に3-6-8-8という人数構成。パートバランスだけ見れば申し分なさそうだが、トップテノールのファルセットを鍛えるなり、きちんとスピントして歌える人材を確保するなりで、なんらかの対策を講じる必要がありそうに見受けられる。

第1ステージ:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団

男声合唱とピアノ(四手)のための『遊星ひとつ』
作詩:木島始/作曲:三善晃
指揮:雨森文也/ピアノ:野間春美,平林知子
  • INITIAL CALL
  • だれの?
  • 見えない縁のうた
  • バトンタッチのうた

雨森先生はこれまで大学合唱団の演奏会に出演したことがなかったはずで、新潟ユース合唱団でご指導を受けたことがある身としては、いずれどこかの大学合唱団がオファーしてしかるべきとかねがね思っていた。そのチャンスがようやく訪れたが、初めて指揮する大学合唱団が慶應ワグネルというのは意外だった。プログラムは『遊星ひとつ』、過去さまざまな指揮者と合唱団により爆発的な演奏が繰り広げられてきた曲目である。それを雨森先生が振ったらどうなるか、否が応でも期待は高まる。

実際の演奏は、事前に想像していたのと好ましい意味で異なる方向性の音楽だった。1曲目はオーケストラの弦のtuttiみたいなサウンドで、宇宙そのものというべき音空間。2曲目はゆっくりめのテンポで、「怯え」そのものよりも「消えていく」さまをあらわすかの如し。後半2曲も、雨森先生は詩曲で描かれる心情の動きに沿って苦悩したり踊ったり飛び回ったり。歌い手一人一人の自己表現は想像していたより抑えられていて、皆のめざすところが一点に集中していたようであった。

三善晃氏の男声合唱作品はハイトーンを要求するものが多い。今回はトップテノールにエース級のメンバーがいたのでハイトーン部分も安心。トップテノールが脇役に回るべきところ若干突出していた箇所が散見されたが、あの響きを抑えさせるには限界があるのだろうな。

第2ステージ:早稲田大学グリークラブ

中島みゆきセレクション
作詩・作曲:中島みゆき/編曲:下薗大樹
指揮:白石貴啓(学生)
  • 宙船
  • 命の別名
  • 時代
  • 愛だけを残せ
  • 誕生
  • ヘッドライト・テールライト

近年は演出ステージばかりの早稲グリ、今年は久々に歌うことに専念した単独ステージ。記録を調べたところ2005年の『カウボーイ・ポップ』男声版初演以来。エンターテインメント精神は中島みゆきという選曲で示されている。中島みゆきと男声合唱って相性がよいのですねえ。女性性を抑えた曲を選んだおかげもあるのだろうけど。

関西学院グリークラブで学生指揮者を務めていたOBによる編曲は、男声合唱を鳴らすツボを十二分に心得たもの。リズムを刻む系のスキャットは使われていないアレンジなのに、演奏はビート感・グルーヴに溢れていた。ただエールでみられたフレージングの工夫は感じられなかったような気がする。

「ヘッドライト・テールライト」はステージアンコール。照明が暗転し、前に出たソリストにスポットライトが当たり、ソロと合唱が掛け合う形で演奏された。

第3ステージ:立教大学グリークラブ

男声合唱組曲『尾崎喜八の詩から』
作詩:尾崎喜八/作曲:多田武彦
指揮:高坂徹
  • 冬野
  • 最後の雪に
  • 春愁
  • 天上沢
  • 牧場
  • かけす

インターミッション明けのステージ。歌い手が入場・登壇したが立ち位置がずれていて、高坂先生が入場してフォーメーションを直した。そのさまに場内からクスクス笑いが漏れる。並びの修正が終わり、指揮者は客席を向いて一言「すみません」と頭を下げた。指揮者が向き直って指揮を始めたら一瞬にして空気が引き締まった。

『尾崎喜八の詩から』はせきが初めての六連で歌った曲だが、当時よりぐっと充実して完成度の高いステージであった。曲間で音を取り直さずに歌い進めたことが何よりの証拠。後輩の成長を喜ぶ反面、自分たちの演奏に恥ずかしさも感じたところである。これをエールでも生かせれば言うことなし。

1曲目冒頭「いまーっ のにはーっ」で驚いた。かつて歌ったときや、その後いくつか聴いた実演では、冒頭ユニゾン部分がすべて16分音符であるかのように演奏したからである。帰宅後に出版譜を見直したところ、フレーズの終わりは8分音符や付点8分音符で記譜されていて、今回は音符の長さを忠実に歌い分けたことが確認できた。「長い」のガで少し伸ばしたのも同様で、譜面にはテヌート記号が印刷されている。なお、作曲者が指揮するとき、テヌート記号を短めのフェルマータみたいに演奏することがある(例:「柳河」の「ノースカイ」)。

第4ステージ:東京大学音楽部合唱団コールアカデミー

『Missa: “Inviolata”』
作曲:G. P. Palestrina
指揮:有村祐輔
  • Kyrie
  • Gloria
  • Sanctus・Benedictus
  • Agnus Dei

カウンターテナーを用いたルネサンスのミサ曲。マルカート気味の固めな歌唱で一音一音を粒立たせる演奏法はもはや伝統。人数も30名近くにまで増え、足元がきちんと固まったステージだったように思う。

第5ステージ:明治大学グリークラブ男声合唱団

男声合唱組曲『秋の瞳』
作詩:八木重吉/作曲:松下耕
指揮:佐藤賢太郎
  • 貫ぬく 光
  • 秋の かなしみ
  • 空が 凝視ている
  • はらへたまつてゆく かなしみ
  • うつくしいもの

Ken-P氏の指揮による実演を見るのは初めて。曲作りはとてもオーソドックスながらも、盛り上げるべきところでは劇的であろうとし、そうでないところとのメリハリが意識されていたように感じた。

合唱は山台を使わず平場に立ち、指揮者を円弧上で囲む形で並んだ。ただ「雲」でだけ歌い手が移動し、舞台いっぱい使ってバラバラに並びながらの演奏だった。「葉」以降は元のフォーメーションに戻る。かつて明治大学グリークラブ定期演奏会で信長貴富作曲『Voice』を取り上げた際、同種の演出をもう少し大々的に加えた前例がある。「空が 凝視ている」でそういう趣向をしなかったのがちょっと意外。

エールの項で触れたトップテノールは時々ひっくり返りそうになりながらも辛うじて踏みとどまっていた。

第6ステージ:合同演奏

寺山修司の詩による6つのうた『思い出すために』男声4部合唱版委嘱初演
作詩:寺山修司/作曲:信長貴富
指揮:鈴木成夫
ピアノ:山内知子
  • かなしみ
  • てがみ
  • 世界のいちばん遠い土地へ
  • ぼくが死んでも
  • 思い出すために
  • 種子

男声4部合唱版は指揮者の提案により委嘱されたもの、プログラムパンフレットによると《寺山修司の湿った血の臭いのする詩と、信長さんが作り出した演劇的な音楽の世界観は男声合唱にぴったりなのですが、その特性を生かすにはどうしても4部合唱の重層感が必要なのです》とのこと。

できあがった男声4部合唱版は、旋律線をヴォーカリーズが補強するアプローチでのアレンジが多いような印象。新実徳英氏が書いた「白いうた 青いうた」シリーズと、そこから改作された数々の合唱曲との関係に近いものがあるかな。

少人数演奏を余儀なくされる男声合唱団は少なくないので男声2部版のニーズは大きそうな感じだが、実際のところ男声2部版の演奏頻度はさほど高くないようである。出版譜がオンデマンドというのも一因だろうが、ほかの曲も含め男声2部合唱曲のレパートリーが全般に定着しているとはいいがたく、そもそもこの編成自体に対する抵抗が強いということかもしれない。

アンコール:合同演奏

「夜明けから日暮れまで」男声4部合唱版委嘱初演
作詩:和合亮一/作曲:信長貴富
指揮:鈴木成夫
ピアノ:山内知子

珍しくアンコール曲も事前に告知されていた。この事情について様々な説明がなされたが、信長氏がFacebookで記した《この曲については編曲料の代わりに先行出版してそれを歌い手に買っていただくという方法をとったため》が最も詳しいと思われる。

東日本大震災がらみの物語があることを忘れてはならないが、そればかりでなく「うた」としての親しみやすさもある曲。


末筆ながら、出演者・スタッフ・来場者の皆様、お疲れ様でした。

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