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プーランク作曲『クリスマスの4つのモテット』攻略にあたってのメモ

近年せきが混ぜてもらっている合唱団Lalariでは、昨年6月10日(選曲のためのお試しアンサンブルを含めると5月27日)の練習から今年1月28日の第16回新潟県ヴォーカルアンサンブルコンテスト本番まで、足掛け約8ヶ月半にわたり、Francis Poulenc作曲『Quatre motets pour le temps de Noel(クリスマスの4つのモテット)』FP152より「II. Quem vidistis pastores dicite」と「IV. Hodie Christus natus est」に取り組んできた。

普段なら練習日ごとに日記の形でメモを書くところだが、さすがに最後の本番から3ヶ月も経つと、どの練習でどんなことをやったかのディテールはほとんど記憶に残っていない。

そこで今回は、歌うにあたって気を付けたことや、練習の場で交わされた指摘などを、まとめて記すことにする。今後この曲に取り組む皆様のご参考になれば幸い。

本稿では、Lalariの練習で使った、音楽之友社から2015年11月30日付で出版された「プーランク 混声合唱曲集」を参照した。


演奏可能な人数

Lalariがこの2曲を選んだ理由の一つに、人数の問題がある。新潟県ヴォーカルアンサンブルコンテストではソプラノ1名、アルト2名、テノール1名、バス1名。10月の花嫁人形合唱コンクールではソプラノ2名、アルト3名、テノール2名、バス1名だったので残り2曲も人数的には演奏可能だったが、出演できることが確実だったメンバーがアンコンとほぼ同様な状況だったので、男声にdivisiがある第3曲「Videntes stellam」に手を出すのはためらわれた。

2曲とも、テノールとバスはdivisiなし。第2曲はソプラノとアルトが2部ずつに分かれるが、唯一ソプラノとアルトが同時にdivisiするものとして記譜されている第35小節はソプラノ下とアルト上が全く同じ動きなので実質的には女声3部。他のdivisiもソプラノだけ分かれる箇所とアルト第4曲だけ分かれる箇所のみ。第4曲はアルトだけ第71小節で2部に分かれる。そんなわけで、アンコンでの編成が、この2曲を演奏可能な最少人数なのであった。

第4曲については、前述の第71小節で譜面上はテノールが休符なので、アルト下をテノールが歌えば混声カルテットでの演奏も可能である。左座家によるカルテットの実演がYouTubeで視聴できる。

なお、第1曲「O magnum mysterium」に手を出さなかったのは、花嫁人形合唱コンクールのときは他の曲とのバランスを考慮してのことだった。課題曲「花嫁人形」が陰影の濃い曲で、続けて「O magnum mysterium」だと空気が重たくなりすぎるのではという判断である。アンコンのときは人数的には演奏可能だったが、練習スケジュール的に新曲へ手を出すのは無茶ということで見送られた。ソプラノの声質と相性の良さそうな曲なのでいずれやりたいという意見もあったのだけれど。

プーランク作品だと、divisiのない「Salve Regina」も候補曲に挙がっていたが、ぴんとこない様子のメンバーがいたので候補から外れた。のちに全日本合唱コンクール全国大会でいくつも実演を聴き、息の長いフレージングが要求されカルテットでの演奏は至難な曲だという感想を持った。

音取り

第2曲の音取りは、プーランク作品にしては比較的ハードルが低いほうだと思う。24小節と28小節の5拍めでソプラノとテノールがfisで揃うのが少々難儀そうだった。

第4曲は、臨時記号による一時的転調が多発するわ、バスに7度跳躍や9度跳躍や増4度跳躍があるわで、音取りには個人的に手こずった。他パートとオクターブユニゾンになる瞬間が結構たくさんあるので、そういう箇所をマークするのが音を見失わないためのガイドとして役に立った。一方、自分のパートと2度や7度でぶつかるパートをマークするのも、障壁を分かりやすくする点で役立つと思う。

階名をふったりもした。他のメンバーは基本的に固定ド唱法な方々ばかりなので、転調の読み替えなどは我流で済ませた。団として移動ド唱法を導入している場合、転調の取り扱いは楽曲の解釈に深くかかわる要素なので、個々人が我流で階名をふるのでなく、指揮者や練習責任者といった全体のサウンドに目配りする立場の人が転調の読み替え処理法について具体的に指示するのがよいものと考える。

第4曲の23小節や31小節についてはコードネームをふるのも有効だと思う。和音の流れが全体像として把握しやすくなるし、それぞれの和音の中で自分のパートが第何音か意識を向けやすくもなるのが利点。

拍・音符の長さ

Larariの練習では拍・音符の長さについてしばしば指摘が出た。

第2曲は、3パートが8分音符で切れるところ1パートだけ16分音符で残る箇所がいくつかある。そういう箇所は、先に切れるパートを内切りに処理し、残るパートにかからないようにする配慮が必要となる。

27小節の女声は3拍目「nun」の4分音符をすぐnにもっていこうとしていたが、そこで音がなくなるとテノールの8分休符と重なって無音の瞬間が生じフレーズに切れ目ができてしまうのでなるべく母音を伸ばしてほしいとリクエストしたっけ。

第4曲は、花嫁人形合唱コンクールで自分が率先して走ってしまった。その後の練習で、しめくくりの8分音符が短くつまってしまうという指摘をいただいた。フレーズの大半を支配する16分音符に影響されたのだろう。8分音符を「16分音符×2つ」と認識し直すことで、走る現象の改善ができた。

よそ様の演奏をいろいろ聴くと、フレーズ終わりの8分音符を、限りなく16分音符に近い短さで歌い、語尾が跳ね上がって乱暴に捨てているがごとく聞こえるものが散見される。特に指揮者なしのアンサンブルでは語尾をテヌート気味に収めるのがよいであろう。フレーズ途中でも「excelsis Deo」の「sis」あたり同様。

第2曲について、語尾の8分音符をたっぷり目に処理するようにしたところ、しっとりした雰囲気の演奏になったという感想がメンバーの一部から出た。

単語の切れ目

第2曲に出てくる「annuntiate」は「an」と「nuntiate」の間や、「annun」と「tiate」の間で切れて聞こえやすい。

第4曲に出てくる「justi dicentes」は「jusっ, tidi centes」みたいなディクションになりやすい。

フォーメーション

アンコン本番前々回の練習だったか。アンサンブルに煮詰まってしまったため、SATBという並び順だったパートの立ち位置をSTABに入れ替えるよう提案してみたら「アンサンブルしやすくなった」と大好評をいただき、本番もそのフォーメーションで歌うことになった。

提案にはそれなりの根拠があった。このたびの2曲は、女声(ソプラノ&アルト) vs. 男声(テノール&バス)よりも、高声系(ソプラノ&テノール) vs. 低声系(アルト&バス)や、外声(ソプラノ&バス) vs. 内声(アルト&テノール)という関係性のほうが濃い。一方で、4声のアンサンブルが横一列に並んで歌う場合、隣り合ったパートや両端どうしのパートは聴きあいやすいのに対し、間に1パート挟まったパートどうしはやや聴きあいにくい。アルトとテノールを入れ替えると「高声系 vs. 低声系」というフォーメーションになり、関係性がやや薄いテノールとバスが離れるので、楽曲の配音に近い構造の並びになるのだ。

少なくとも音楽之友社版「プーランク 混声合唱曲集」に収録されている作品は、このたびの2曲以外も同様の傾向が認められるものが多いので、取り上げる皆様へはSATB以外の並びによる演奏をおすすめしたい。LalariがやったようなSTABでもよいし、オーケストラとの共演でしばしばみられるSTBAでも、あるいは前列SA・後列TBでもよかろう。ある程度の人数がいる合唱団ならばSATで並んだ後ろにバスが横1列というのもありうる。いっそ個々人の両隣が別々のパートというシャッフル状態もありうる。もちろん、ここに書かなかったフォーメーションでもいいだろう。曲の構造を踏まえて、様々な並び方のアイディアを試してみてはいかが。

さまざまな工夫

かつて当ブログでちらっとキラキラ感というキーワードを出したことがあるのは、第2曲の曲想についての話だった。

上3声が「collaudantes」、バスだけ「Dominum」と歌うのが2ヶ所ある。初回(19小節)は抑えめにあっさり、2回め(37〜38小節)は他パートを煽るつもりで歌ってみた。練習では意図を説明しなかったけど、皆様ちゃんと呼応してくださっていたようで有難い限り。

第4曲はキリスト生誕を祝う曲だけど、祝祭を意識するとどうもワッショイワッショイといったノリになってしまうのが難しかった。

第4曲の練習番号6(33小節)以降ずっとff、最後の5小節はfff。この通りに演奏するとfffが効かなくなるため、42小節だけほんの少し音量を落とすという細工をした。

余談:楽譜など

音友の楽譜は入手しやすいし、複数の先行出版譜を底本に校訂が加えられているので安心。歌詞の逐語訳および口語訳や、フランス語で書かれたさまざまな指示の日本語訳といった巻末付録が親切。ただ、巻末付録では歌詞の発音が(恐らく簡略化のため)ひらがな・カタカナを主軸にまとめられているが、プーランクという少々チャレンジングな作曲家に取り組む層にとってはIPAを前面に出したほうが分かりやすいのではと思う。

音友の楽譜による演奏はharmonia ensembleによるCDが市販されている。混声合唱曲集に載っている曲は「Vive Nadia」以外すべて網羅されている。演奏も素晴らしいし、ブックレットの曲目解説は極めて丁寧なので、これに収録されている曲に取り組む人は持っていて損はないだろう。宗教曲縛りという選曲のため、男声合唱曲集に載っている作品は「8つのフランスの歌」からの2曲以外ということになる。混声合唱作品だと「人間の顔」、男声合唱作品だと「酒の歌」は、もともと音友の楽譜に収録されていない。

どうしてもお金をケチりたい人向けには、パブリックドメインな楽曲を集めた「IMSLP/ペトルッチ楽譜ライブラリー」で、最初に出版された楽譜Paris, Rouart, Lerolle & Cie., 1952. Plates R.L. 12,525 – 12,528.をスキャンしたデータがPDF形式で公開されていることを紹介しておく。

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