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佐村河内守 影武者騒動

最初に断り書き。この記事では、佐村河内守氏と新垣隆氏の一件をめぐるもろもろから思ったことを野次馬として書き連ねるのみであります。


今回の一件について新垣氏が告白に至った動機は、代作それ自体もさることながら、むしろ佐村河内氏のさまざまな言動が度を越して目に余るからといったところのようです。特に佐村河内氏が聴覚障碍を騙っていたという疑惑については、もしそれが事実なら詐欺罪にあたり、代作よりもはるかに重大な問題です。障碍者の皆様におかれましてはたまったものではないでしょう。


せきがツイッターでまとめている「合唱作品を書いた作曲家」の公開リストには、いわゆる現代音楽畑をフィールドとする作曲家の方々のもあります。それを眺めていると、佐村河内氏ご本人が2月5日午前中に「自分が書いたものとして発表した作品はすべて別の人が作曲したものである」という報道リリースをした直後と、同日夕方にそのゴーストライター=新垣氏であることが公表されて以降とで、ツイートの調子が変化した人が複数名いらっしゃるのが興味深いところでした。


佐村河内守名義で発表された楽曲のうち『現代典礼』こと『交響曲第1番 HIROSHIMA』については、佐村河内氏が指示書をこしらえ、それに沿って新垣氏が五線譜にしたとのことです。この役割分担に於いて佐村河内氏ご本人の役割分担を作曲と呼ぶのが適切か否か、見解が分かれるところです。見解の相違は、くだんの指示書を楽譜として認めるか否かに起因するように見受けられます。

私見では、あの指示書(TVで全体像が紹介された)は、いわゆる現代音楽でしばしば用いられる「図形楽譜」の一種として解釈しうるもので、その観点でいうなら佐村河内氏の役割を作曲の範疇に含めてもいけなくはないように考えます。

発端となった週刊文春の記事によると、新垣氏が佐村河内氏からの依頼に応じた理由のひとつとして、依頼内容をアシスタント的にとらえていたという趣旨の発言がありました。それに近い形での先行事例には、たとえば武満徹氏による映画音楽の一部が知られています。もっとも武満氏の書いた指示書は図表でなく五線譜だったようですが。

柴田南雄氏のシアターピース作品の中には、ご本人は素材となる民謡を集めて構成するのみで、五線譜(民謡の採譜など)は令夫人お一人が書いたような楽曲がありますが、その作品が柴田南雄作曲であることに異を唱える人はいません。

もっとも武満氏にせよ柴田氏にせよご自身で譜面を書いた作品のほうがずっと多いわけですが。

ちなみに、ゴーストライティングの別の事例として、青島広志氏が「ギルガメシュ叙事詩」CDのライナーノーツで、林光氏のとある合唱作品(確か男声合唱曲。タイトルは記載なし)を代作したことがあるという趣旨の話を書いているのを、読んだような記憶があります。

週刊文春の記事によると、他の作品については『現代典礼』こと『交響曲第1番 HIROSHIMA』ほど細かい指示書は作られず、委嘱者のリクエストを伝える程度という曲もあったようです。


『現代典礼』こと『交響曲第1番 HIROSHIMA』の指示書には「ビクトリア(レクイエム)・バード(ミサ曲)」やら「ペンデレツキ70%」やらと記されています。佐村河内氏がいろいろと聴き漁ってきたのだなということは分かりました。

指示書の「ビクトリア」は、ルネサンスのモテットを歌う合唱人にはおなじみの、16世紀スペインの作曲家・Tomas Luis de Victoriaのことなんでしょうね。とある情報番組で、このビクトリアをビクトリア朝のことだと解説したものがあったそうです。ビクトリア朝はイギリス19世紀後半の王朝で、19世紀は中世ではありません。

どうもマスメディアの中には、いわゆる純音楽について不勉強なまま、もしくはいわゆる純音楽音楽界隈の専門家に教えを乞うことなく、取材したり報じたりするものがあるみたいですね。


マスメディアの報道でもうひとつ気になったのは、佐村河内守名義で発表された楽曲を流しているTV番組があったことです。現在JASRACでは「権利の帰属が明確になるまで、利用の許諾を保留する」という扱いになっているため、放送で楽曲を流すのは著作権処理上の問題があります。

新垣氏が告白するきっかけのひとつは、ソチ五輪で高橋大輔選手が佐村河内氏作曲と銘打たれたヴァイオリン曲を使うということです。五輪の本番までにはここらへんの問題が解決されればよいのですが……。



追記(2014/02/08;2014/02/23)

末尾にあった文章を最初に動かすなど、いくつか加筆しました。

本件に対する作曲家の反応として、たとえば吉松隆氏のブログ「隠響堂日記」の「S氏騒動」「続S氏騒動」「またS氏騒動・長文多謝」「しつこくS氏騒動・交響曲編」「ひとまずS氏騒動」「なるほどS氏騒動」「まだやるかS氏騒動・演奏家編」や、伊東乾氏によるJBpressの連載コラム「偽ベートーベン事件の論評は間違いだらけ あまりに気の毒な当代一流の音楽家・新垣隆氏」「音楽家の善意を悪用、一線を越えた偽ベートーベン あまりに気の毒な当代一流の音楽家・新垣隆氏(2)」「偽ベートーベン事件、罪深い大メディアと業界の悪習慣 あまりに気の毒な当代一流の音楽家・新垣隆氏(3)」を紹介します。お二方は立場・見解を大きく異にするので、読み比べると見方が立体的になるかと思います。なお伊東氏は、武満徹氏が映画音楽を作曲する際とっていた「ご本人のラフスケッチをアシスタントがオーケストラ譜に起こす」という流儀に対して否定的な人です(「武満徹と楽譜の仕上げ方について – Togetterまとめ」参照)。

『現代典礼』こと『交響曲第1番 HIROSHIMA』の指示書は佐村河内氏令夫人による筆跡という報道があるようです。守氏ご本人が走り書きしたものを令夫人が清書したのか、守氏ご本人が散発的にしゃべったものを令夫人が書き留めたのか、最初から令夫人ひとりのアイディアで守氏は何もタッチしていないか、それ以外なのか、現時点では様々な可能性が考えられます。

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