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男声合唱曲『季節へのまなざし』浄書製本譜の裏話

毎年どこかの男声合唱団が取り上げるピアノ付き男声合唱作品のひとつに、荻久保和明作曲『季節へのまなざし』男声合唱版がある。1985年の初演から30年以上を経た今年3月、音楽之友社から「男声合唱曲 季節へのまなざし」として譜面が発売されることが告知された。

長らく公式な出版譜が存在しなかった男声合唱曲『季節へのまなざし』だが、近年はメロス楽譜という出版社が制作した浄書製本譜が使われることが多かった模様。当方こちらの浄書製本譜と少々かかわりがあるので、公式な出版譜の発売決定を機に知る限り(散発的にツイッターなどで書いたことがあるけれど)をまとめ、記録しておく。


成立過程

初版

メロス楽譜による男声合唱版『季節へのまなざし』浄書製本譜は、1995年に行われた立教大学グリークラブ第86回男声定期演奏会でこの曲を歌うにあたり、指揮者・北村協一先生のご要望を受けて制作されたものである。

それまで男声合唱版の演奏には荻久保氏自筆の手稿譜が用いられていたが、当時63歳の北村先生にとっては字や音符が細かくて見づらいとのことで、浄書した譜面が欲しいという話になった。北村先生はその頃メンネルコール広友会という男声合唱団を指揮しておられた。広友会の団員のおひとりがメロス楽譜を営んでいるため北村先生とつながりがあり、そのご縁で立教男声が『季節へのまなざし』浄書製本譜の作成をお願いする運びとなった次第。

奥付に「1995年8月25日 第1刷発行」と記されているのはそういう経緯である。実際に譜面が届いたのは8月終わりだか9月初めだかだったような。

ところが、この譜面はほぼすべてのページに浄書ミスがあるという代物。特に終曲「ゆめみる」に至っては、この曲だけ練習番号が抜け落ちていたり、転調した次のページ以降で調号が元に戻っていたりであった。

もっとも、フォローの余地がある浄書ミスもあった。手稿譜で判読に困った箇所を音楽之友社から刊行されている混声合唱版の譜面を参照することにより補完して浄書されたものとみられるが、その大半は荻久保氏が男声合唱版への改作にあたって原曲の混声合唱版から書きかえていたため、結果として誤植となってしまったという箇所が多かったのだ。

ともあれ、4年生部員だった私せきが朱を入れた譜面をこしらえ、部員一同に口頭で写譜ミスの修正点を示した。この朱を入れた譜面は制作者へフィードバックされなかったようで、ずっと部室に置いてあったため、卒団の際に持ち帰った。そんなわけで朱を入れた譜面は今もわが手許にある。

なお、このステージは北村先生にとって荻久保作品を取り上げた生涯唯一の演奏となった。うちの代は4年次のグリーフェスティバルで『季節へのまなざし』混声合唱版を演奏したぐらい荻久保作品が大好きだったにもかかわらず(3年のとき作曲者指揮により演奏した六連合同曲『縄文“愛”』で苦戦したというのに)、北村先生の練習は難航した。かつて「北村協一先生にまつわる思い出 (3)」に書いた「練習半ばでお帰りになる事態」は『季節へのまなざし』練習で起きたものである。

第3刷以降

2002年、立教大学グリークラブが再び男声定期演奏会で『季節へのまなざし』を取り上げることになった。このときの指揮者は、当時立教大学グリークラブOB男声合唱団の指揮者でもあった高坂徹先生。そしてOB男声経由で、私せきが浄書譜の校正を仰せつかった。

用意された譜面は第2刷。誤植の状態は限りなく初版に近かったような気がする。徹底的に朱を入れ、メロス楽譜へフィードバックさせていただいた。これでできたのが3刷。浄書ミスを一掃したつもりだったが、残念ながら第3曲「みのる」にミスが残っていた。

その後、2007年の第7回東京男声合唱フェスティバル合同演奏で「みのる」「ゆめみる」を作曲者指揮(荻久保氏にとって初めての男声合唱版自作自演)で演奏した。このときの改版で浄書ミスが根絶されたようだ。

メロス楽譜は多田武彦作品を中心に男声合唱曲の譜面を多く制作している。その中で『季節へのまなざし』男声合唱版が最も多く版を重ねていると思われる。

「日本の絶版・未出版男声合唱曲」管理者として

2004年、Enigma氏が管理しておられたデータベース「日本の絶版・未出版男声合唱曲」を拙サイトで引き継がせていただいた。その際、メロス楽譜に『季節へのまなざし』の扱いについて問い合わせたところ「記載しないでほしい」という回答を頂戴した。

のち、Chorus Score Clubの稲垣社長から「未出版楽譜」の定義について「楽譜店で販売するための流通コードが付けられていないもの」というご教示をいただいた。メロス楽譜版『季節へのまなざし』浄書製本譜についても該当するため「『季節へのまなざし』にはメロスの楽譜があるのになぜ未出版として掲載されているのか」という問い合わせをいただいたときは、後付ながら、このご教示をもとに返答することにしていた。

2002年12月から2年間ほど、ぱだわんと名乗る方(荻久保氏とつながりがあったらしい)が「荻久保和明ホームページ」なるウェブサイト(Internet Archiveによる2004年4月6日時点での魚拓が見られる)を公開しておられた。そこに男声合唱版『季節へのまなざし』がメロス楽譜から出版されている旨の記載があったので、前述の問い合わせ結果をもとに「あれはあくまでも私家版の浄書譜。公式な出版譜ではない」と連絡申し上げた。実際、メロス楽譜もごく初期は出版物リストに『季節へのまなざし』を載せていたことがあったが、ある時期から出版物リストへは流通コードの付いた公刊物のみの掲載となった。

ぱだわん氏とのメールでのやりとりを通して、荻久保氏はメロス楽譜による浄書譜を公認しておられ演奏希望の問い合わせをもらったときはメロス楽譜を紹介していらしたことや、音楽之友社から当時『季節へのまなざし』男声合唱版を出版する気がないと言われたというお話を伺った。ぱだわん氏へはメロス楽譜の連絡先情報を添えて「委細はメロス楽譜に直接お尋ねいただきたく」と申し上げたが、その後ぱだわん氏とメロス楽譜との間でやりとりがなされたかどうか私は存じ上げない。


せきもたまに未出版の楽譜の入手法についてお問い合わせをいただくことがあり、きまって「混声合唱版や女声合唱版などが出版されている楽曲については、編成違いのバージョンを出している版元気付で問い合わせるべし」と答える。これは『季節へのまなざし』とかかわりを持った経験によるところが大きい。

もちろん、同じように対応する作曲家もいらっしゃる。たとえば森山至貴氏がそのおひとり。

もしも『季節へのまなざし』男声合唱版楽譜の入手について音楽之友社へ問い合わせる人が相当数いらしたなら、この曲の譜面はもっとずっと早く公刊されていたことであろう。

ちょっと前に三善晃編曲『唱歌の四季』男声合唱版が音楽之友社から公刊された。「三善晃編曲『唱歌の四季』にまつわる折々(続)——男声合唱版楽譜公刊に至るまで」にも書いた通り、手前みそながら「もし出版をお考えなら、同声合唱版や混声合唱版の楽譜を出している音楽之友社に筋を通したほうがよいと思う」と申し上げたことが影響したのだ。

文筆家や漫画家には「作品を出版するかどうか決めるのは作者ではなく出版社である。出版社へ問い合わせが多く集まれば、それだけニーズが高いと判断されやすくなる。だから出版のリクエストは出版社に出してほしい」と説く方がおられる。楽譜についても出版物であるからには同様の理屈が成り立つはずだけれど、そうおっしゃる作曲家は寡聞にしてあまり見かけない。残念。一日も合唱界でもこの考え方が普及し、演奏者(ユーザー)と出版社との積極的なコミュニケーションによって楽譜の市場がより活性化すればと願うところである。

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