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『新しい歌』改訂で何がどう変わったか概観する(混声篇)

昨日付けエントリ「譜面入手 & 連載再開予告」の続きということで、混声合唱版「新しい歌」旧版と改訂版の出版譜をざっと見比べてみました。
本エントリ執筆にあたって参照したのは、旧版の初版第1刷と、改訂版の新第1刷(通算23刷)です。
ライナーノーツには改訂に当たって作曲者が次のように書いておられます。

《新しい歌》を作曲してから約10年が経ち、これまで実演に接して気になっていた楽譜上の表記をこのたび見直すことにいたしました。変更内容は強弱記号やピアノのアーティキュレーションといったディテールがほとんどであり、聴いた印象が変わるというものではありません。

実際はどうなのか。確かに「ディテールがほとんど」で、音楽の屋台骨に影響するほどの大改訂ではありません。でも、旧版の譜面を見ながら改訂版の演奏を聴くと「ン?」と思う人も案外いそうな変更が目白押しです。
これからこの組曲もしくはその収録曲を演奏する人におかれましては、正誤表で済まさず、改訂版の譜面を買いなおすほうがよいと思います。
以下、変更点を、営業妨害にならない範囲でざっくり概観します。
全編にわたり、テンポ指定が「=」から「≒」に変わって許容範囲が広がったことや、テンポ・強弱のめりはりがより明確になったことなどが、パート問わず挙げられる変更です。
テンポ・強弱の変わり目が前後した箇所や、細かいクレッシェンド・デクレッシェンドの繰り返しが大きな一つのクレッシェンド・デクレッシェンドに収斂された箇所もあります。
旧版では楽典的に間違った「piú ff」みたいな指定が目に付きました(piúは「より○○」という意味なので、強弱記号で後続するのは本来 f [forte] と p [piano] だけ)が、強弱指示が具体的なものになったり、大雑把に直前のダイナミクスより大きくしたい場合は「piú forte」と統一されたりしたことも、見落とせません。
合唱については、音・拍の取り直しが要る箇所があります。
「II. うたを うたう とき」については、第24小節の女声パートでdivisi(声部分割)のしかたが変更されています。
「III. きみ歌えよ」については、フレージングが分割されたヴォーカリーズがいくつかあります。
「V. 一詩人の最後の歌」については、第57小節で全パート揃って音符の長さが短くなっているのと、第93小節でAltoの音程が変更されているのと、第98小節のAltoが「B. F.」から「B. O.」に変わっているのと、同じ小節のBassでヴォーカリーズの譜割りが男声版(少なくとも旧版)と同じ形に変更されていることの4点に要注意です。
ピアノについては、強弱やテンポに関する指定の変更のほか、右手の和音の音数が間引かれている箇所が大半を占めます。左手を足す形で音数が増やされた和音もあります。音符の長さの変更やペダルの指示の追加もあります。
「III. きみ歌えよ」については、4分打ちでバンプを刻む和音の一部がDm(クラシック式に書くとd-mollの基本形)からB♭ on D(クラシック式に書くとB-durの第1転回形)に変更されています。
「V. 一詩人の最後の歌」については、合唱以上に大胆に手が加わった箇所が散見されます。大半は合唱が高揚する部分のバックで鳴る和音です。エンディングで合唱のロングトーンにかぶさる和音連打も書き直されており、旧版になじんだ人の多くがエンディングのピアノで目を丸くするのではと思われます。
サウンドに直接かかわりない譜面の変更点も挙げておきましょう。

  • 表紙に外国語タイトルとして「Cantos Nuevos」と書き足された
    (タイトル曲の原題をそのまま用いた模様)
  • 「IV. 鎮魂歌へのリクエスト」間奏の口笛について脚注が消された
    (『「IV. 鎮魂歌へのリクエスト」その2: ジャズとの関連』参照。ただし、ピアノパートに「※」の残骸がある)
  • 巻末の原詩について、作曲されなかった部分に対する強調修飾が斜体から傍線に変わった

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総目次: 「新しい歌」をめぐって

しばらく、男声/混声合唱とピアノのための『新しい歌』について、いろいろと断続的に書いてみます。
新潟ユース合唱団で取り上げていることが本稿を書くきっかけです。ただ、本番で歌う曲などのスケジュール的兼ね合いから、当シリーズでは普通の連載スタイルでなく、順不同でアトランダムに記します。
【総目次】

「II. うたを うたう とき」その1: まどさんの詩には……

「うたを うたう とき」のテキストを書いた、まど・みちお氏について。
まど氏は1909年11月16日生まれ。ただいま100歳ですが活動継続中で、新潟日報に連載を持っておられます。
氏の作品は童謡になったものが有名です。たとえば「やぎさんゆうびん」「ぞうさん」「ふしぎなポケット」など。
それ以外の詩でも童謡のテイストが生かされたものが多いように思います。
2009年5月30日、新潟ユース合唱団の練習にて、指揮者・tek310氏の発言をご紹介。
「まどさんの詩には無駄がない。そのぶん、演奏者は言葉を大切に歌わなくてはいけない」
これを聞いて、せきは、三善晃氏が初めてまど作品をテキストにした組曲「詩の歌」出版譜のライナーノーツに「まどさんの詩は高浜虚子の言う『正格』」と記されていたのを思い起こしたものです。
「うたを うたう とき」は、1973年に理論社から出された「まど・みちお少年詩集 まめつぶうた」に収録されている詩です。
現在この詩集は単独で新装版として発売されていますが、もともと「現代少年詩プレゼント」という、小学校高学年〜中学生を対象にしたシリーズの1巻でした。

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「II. うたを うたう とき」その2: ……なところが信長さんは

まど氏の詩はさまざまな人によって作曲されていて、誰がどの詩に作曲したかという一覧が「日本詩人愛唱歌集 詩と音楽を愛する人のためのデータベース」の「まど・みちお」の項にまとめられています。
まど氏+信長氏による合唱組曲は現時点で「せんねんまんねん」「トンボとそら」の2作品があるようです。いずれも混声。
ほか、「うたを うたう とき」のような単品が何曲かあります。
2009年5月30日、新潟ユース合唱団の練習にて、指揮者・tek310氏が以下のような感じの発言をしていました。
「他の作曲家(もとの発言では実名が挙がっていましたが、とりあえず伏せます)がこの詩に作曲した曲には長調のものが多いが、この曲は短調。そこに信長さんの非凡なところ」
これを聞いて、せきは、信長氏が唱歌などを編曲した無伴奏合唱曲集「ノスタルジア」出版譜のライナーノーツに「編曲に際しての留意——原曲の魅力を保存しつつ適度な意外性を加味し、印象的な作品にすること」と記されているのを思い起こしたものです。
「うたを うたう とき」は編曲でなくオリジナル合唱曲ですが、シンプルな主旋律を一時的転調や臨時記号による和声や掛け合いなどで支えることによって色彩の移り変わりを演出するあたり、「ノスタルジア」に通じるものがあります。
調性ももちろん意外さのひとつ。
そして最後に平行調の長調で終わるところ、曲が収束して、ほっと安らぐような感じがありますね。

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「IV. 鎮魂歌へのリクエスト」その1: 詩人について

原作詩者・Langston Hughes氏の略歴は出版譜の歌詞ページに記されている通りです。ここでは、氏の作品に、人種差別が色濃い当時の情勢を描いたものや、ジャズの感性を取り込んだものが多いということを補足しておきます。
訳者・木島始氏の詩作に、信長氏は結構たくさん作曲しています。
組曲「初心のうた」はご存知の人も多いでしょう。
木島氏は同一の詩を日本語と英語で書くという試みをしていて、その日本語版・英語版両方をテキストにした「Voice」「Faraway」という組曲もあります。「Voice」は無伴奏男声合唱、「Faraway」は無伴奏混声合唱で、いずれも楽譜が音楽之友社から出版されています。
近作の混声合唱組曲「ねがいごと」は、締太鼓・南部風鈴という合唱曲では珍しい打楽器を取り入れたり、関西弁の厄払い口上をそっくり合唱に取り入れたりなどで、話題になりました。
シリアスな詩にシリアスな曲をつけた「起点」という男声合唱+ピアノ+パーカッションのための組曲もあります(譜面未出版)。
ちなみに、「起点」初演時のアンコールとして、「鎮魂歌へのリクエスト」にパーカッションを加えた形のものが初演されました。このバージョンは今のところ再演されていないはずです。
そうそう。Langston Hughes氏の詩を木島氏が訳したものに作曲した、「スピリチュアルズ」という組曲もあります。2007年に混声合唱+ヴァイオリン+コントラバス+パーカッション+ピアノのために書かれ、翌年、混声合唱+四手ピアノ版も作られました。
いずれも未出版ですが、ジョヴァンニ・レコード「[邦人合唱曲選集] スピリチュアルズ 信長貴富 混声合唱作品集II」におおもとのバージョンの初演音源が収録されて市販されています。

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