Tokyo Cantat 2017 オープニングコンサート「第3回紅白合唱合戦」なるものを聞きに上京。
16時開演、21時過ぎ終演という長時間、しかも休憩は一度きりであったが、辰巳啄郎さん・竹下景子さんの軽妙な進行や、硬軟織り交ぜた演目などで、聴き疲れすることなく最初から最後まで楽しむことができた。
対決の名称はうろ覚えです。今回、敬称は原則として「さん」で統一したつもり。
第1ステージ:大ベテラン指揮者による古典作品対決
- 【紅組】
水戸うらら女声合唱団 - 指揮:中澤敏子/ピアノ:田中直子
- 女声合唱組曲『沙羅』より「丹沢」「あづまやの」「鴉」「占ふと」
(作詩:清水重道/作曲:信時潔)
ご年配のメンバーが大半。歌声がよく客席に届いている。
「あづまやの」では一同が両手を腰に当て、軽く膝を曲げて、発音も声の出し方も狂言師のスタイルで歌った。「鴉」もそうするのかと思っていたら、指揮者が客席を向き狂言師のスタイルで独唱。合唱は途中から合流。残り2曲は西欧クラシック歌唱で、歌い分けが見事であった。
- 【白組】
大阪メールクワィアー・いそべとし記念男声合唱団 - 指揮:須賀敬一/ピアノ:加藤崇子
- 男声合唱組曲『野分』全曲
(作詩:井上靖/作曲:高田三郎)
20代から80代という幅広い年代がひとつにまとまり、若々しさと円熟味がうまく溶け合った、骨太な男のうたを奏でた。高田作品を多く取り上げる演奏者ならではの、高野喜久雄もの・『心の四季』・キリスト教ものなどでは表に出にくい高田作品の顔を見せていただいた思い。
組曲『野分』は、高田作品としては演奏頻度が低いほうである。せきが聴いたことがあるのは、大学4年生のとき、早稲田大学グリークラブ定期演奏会の学生指揮者ステージで取り上げられたときぐらい。ちなみにその学指揮の名は西川竜太。西川さんは今も合唱指揮者として活動しているが、現代音楽系ばかりなレパートリーと比べると、大学生時代の定期演奏会でご自身が振った演目が『野分』(および、多田武彦作曲『柳河風俗詩』)というのは誠に意外である。
稲グリ新聞電子版によると、指揮者の出身団体である早稲田大学グリークラブの後輩が応援で参加していたとのこと。客席では全然わからなかった。
蛇足ながら、パンフレットの歌詞について、「草」が「革」になっていたり、漢字の口(くち)がカタカナのロ(ろ)になっていたりという誤植あり。
第2ステージ:木下牧子初期作品対決
- 【紅組】
N.F.レディースシンガーズ - 指揮:古橋富士雄/ピアノ:秋野淳子
- 女声合唱とピアノのための『ファンタジア』より「雪ひらひら」「ジプシー」「風をみたひと」
(訳詩:木島始/作曲:木下牧子)
NHK児童合唱団の出身者による女声合唱団。
物量で圧倒する演奏が多いような印象の曲集だが、今回はそういう方向性ではなく、歌声で心のひだに分け入るかのような、繊細にして丁寧な演奏であった。声は大人だけど適度に童心を残した演奏ともいえよう。
- 【白組】
男声合唱団TOKEI - 指揮:清水敬一/ピアノ:前田勝則
- 男声合唱組曲『Enfince Finie』より「Enfince Finie」「乳母車」
(作詩:三好達治/作曲:木下牧子)
東京経済大学グリークラブの委嘱作品。同団OBから成る歌い手の数分の一が初演メンバーということもあってか、他ステージと比較にならない熱量の高さであった。
馴染み深い声質に、この団体が大久保昭男先生(せきも大学時代ご指導いただいた)をヴォイストレーナーに招いていたことを思い出す。
第3ステージ:NHK学校音楽コンクール課題曲対決
- 【紅組】
Choeur Vent Vert〜クール・ヴァン・ヴェール〜 - 指揮:田尻明規/ピアノ:高松和子
- めばえ
(作詩:みずかみかずよ/作曲:木下牧子) - 聞こえる
(作詩:岩間芳樹/作曲:新実徳英) - ふるさと
(作詞:小山薫堂/作曲:youth case/編曲:桜田直子)
クール・ヴァン・ヴェールは浦和一女のOG団体。おもに「めばえ」「聞こえる」から、現役時代の延長線上で活動している団という印象を受けた。そういうスタイルに否定的な人もいらっしゃるが、私は「それはそれであり」派。
「ふるさと」は小学校の部の課題曲として使われた編曲をそのまま演奏。手話っぽい振り付けが取り入れられたことに意表をつかれた。
- 【白組】
どさんコラリアーズ&えちごコラリアーズその他 - 指揮:伊東恵司/ピアノ:名田綾子
- ひとつの朝
(作詩:片岡輝/作曲:平吉毅州) - 手紙 〜拝啓 十五の君へ〜
(作詞・作曲:アンジェラ・アキ/編曲:北川昇) - 信じる
(作詩:谷川俊太郎/作曲:松下耕)
頭声重視の伊東サウンドとNコン課題曲って相性いいですね。なにわコラリアーズのCDで千原英喜氏が「伊東さんの音楽は健康だ」みたいなライナーノーツを寄稿しておられたが、その意味がよくわかる。
並びの変化にも意味が込められていたように見受けられた。「ひとつの朝」ではオーソドックスな密集系隊列だったのが、「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」の途中で手拍子をしながら歌い手が舞台いっぱいに広がり、そのフォーメーションで「信じる」の最後まで歌う。内にこもっていたものが解放・開放されていくかのごとし。
「ひとつの朝」について、編成を問わず、一曲通して聴くのは初めて。断片的には「表参道高校合唱部!」DVDの特典ディスクに収録されている混声版で3分の1ほどを聴いたことがある。比べると、このフレーズをこのパートに歌わせるのかと意外に感じた箇所がいくつもあり、新鮮だった。伊東先生はこの曲がお気に入りなのか、1週間後のなにわコラリアーズ演奏会でも取り上げた由。
第6ステージピアニストの須永真美さんがこのステージで譜めくりを担当したことを後日ツイッターで知り、驚いた。
蛇足ながら、パンフレットの男声版初演データについて「手紙」「信じる」が逆になっていた。
第4ステージ:昭和ヒットソング対決
- 【紅組】
たなばた女声合唱団 - 指揮:野本立人/ヴァイオリン:田尻かをり/チェロ:袴田容/ピアノ:筧千佳子
- ザ・ピーナッツ ベストヒットメドレー 〜女声合唱とピアノ三重奏のための
(編曲:田中達也)
「情熱の花」「ふりむかないで」「銀色の道」「恋のフーガ」「モスラの歌」「大阪の女」「ウナ・セラ・ディ東京」「恋のバカンス」の8曲から成る。うち「ウナ・セラ・ディ東京」は合唱は歌わず、ピアノ三重奏のみで演奏された。
歌い手・会場が一体になってノリノリ。特に真ん中へん最後列、リズムに乗せて体を揺らしながら歌うメンバーがいらして、心底楽しんでいる様子であった。「モスラの歌」では笑いが起きていた。
歌いやすそうな編曲だし、抜粋すれば合唱祭みたいに演奏時間の制約が厳しいステージでも使いやすそうだしで、出版されたらおかあさんコーラスが飛びつくのではと思われる。
原曲の持ち味を最大限に生かした編曲ではあったが、ピアノ三重奏という編成で「恋のフーガ」のティンパニはどうするんだろうと思っていたら、チェロが再現。
書き下ろし初演ということで、演奏直後に編曲者の田中さんが紹介された。私の2列ほど斜め前に座っておられた。紹介後すぐ田中さんは客席を離れ、いらか会合唱団に大急ぎで合流。
- 【白組】
いらか会合唱団 - 指揮・ピアノ:清水昭/パーカッション:篠崎智/クラリネット:石川薫
- 懐かしのグループサウンズセレクション」
(編曲:清水昭)
いらか会合唱団は早稲田大学コール・フリューゲルのOBが母体ということになっているが、男声合唱団TOKEIやクール・ヴァン・ヴェールや安積フィメールコール東京みたいなOBOG合唱団とは異なり、他団体出身者も結構いらっしゃる。前述の田中さんおよび令夫人とか、ブログ「合唱道楽 歌い人」の御方とか。ちなみに、清水さん・野本さん・田中夫妻は合唱団ひぐらしのメンバーという共通項もある。
曲目はザ・ワイルドワンズ「思い出の渚」、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ「ブルー・シャトウ」、ザ・スパイダース「あの時君は若かった」、ザ・タイガース「シーサイド・バウンド」。パーカッションはバンドサウンドらしさ+αの味付け。クラリネットも新鮮だったけれど、パーカッションとの組み合わせは時々グループサウンズというよりチンドン屋みたいだった。
このステージでは枠組みに縛られない清水昭ワールドが繰り広げられた。清水さんは「あの時君は若かった」演奏前に作曲者・かまやつひろしを追悼するスピーチを、「シーサイド・バウンド」演奏前に「客席の皆さんも掛け声よろしく」と。お言葉に甘えたせきは楽しみすぎたあまり「シーサイド・バウンド」最初のほうでGo Boundと叫んでしまい、周囲が静かだったのでバツが悪かった。
それにしても、豚カツやニンニクなどをぶっこんでくるなんて。当時流行したネタではありますが。
ボリューム等の都合で後半戦については記事を改めることに致します。