例年通り、六連こと東京六大学合唱連盟定期演奏会を聴いてきた。このたびは日帰りの上京。
出演者・スタッフ・来場者の皆様、お疲れ様でした。
昨年だか一昨年だかから立教グリー現役のOBOGマネージャーがチケット購入をEメールで受け付けるようになったので、今回はそちらルートで3月終わりごろに購入。チケット到着は4月7日、例年より半月ほど早い。
余談。11月に行われる現役の定期演奏会もEメールで購入を申し込んだ。4日の女声定期演奏会は地元にできたデメテル・コロディアという合唱団(詳細はいずれ)の練習、17日の男声定期演奏会は職場の出勤日および忘年会と重なっているので行けないのだが、寄附として1枚ずつ手配をお願いした。
閑話休題。
会場の文京シビックホールには開場から間もなく到着したはず。
ロビーにフラッグが吊るしてあったことに驚いたが、この大ホールには舞台上にフラッグを吊るす設備がないようで、その代わりにということらしい。
到着。今年はロビーにフラッグが。 pic.twitter.com/9qzmhvNTIb
— せき (@chor16seki) 2018年5月5日
エール交歓
今年も昨年の第66回同様、単独ステージや合同ステージに劣らぬほど練習を積んだことがわかる、実に安定感たっぷりなアンサンブル。
慶應、ハ長調での演奏。ワグネルトーンは健在なり。
東大、コルアカといえば乾いた音色で針の穴に糸を通すような歌唱というイメージがあったが、今年は声質がふくよか。歌詞の処理に、ところどころ指揮者の意思が感じられる。
早稲田、年々雑味が薄まり爽やかさや快活さが全面に出るようになっているものと感じられる。
立教、発語やハモリなど一つ一つの処理がきちんとなされている。ボイストレーナー交代のためか、バリトンがテノール寄りの発声に。トップによく通るストレートヴォイスな人がいる。
法政、たぶん音叉での音取り。指揮者は前奏とコーダだけ前で振り、校歌本編では他7名に混じって歌った。少人数の良さが感じられる、親密さ溢れるアンサンブル。高音域で下から突き上げる発声・歌唱法をする人がいて、そのせいか部分的に粗くなるのが惜しい。
明治、どういう音楽を創ろうとしているか方向性が明確で、まとまりが良い。
1st stage:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団
- 「Fragments —特攻隊戦死者の手記による—」
- 作曲:信長貴富
指揮:宮本益光/ピアノ:高田恵子
視覚的演出が入りがちな曲。たとえば、Mu Projectによる今年5月27日の演奏。自分が実演を見たものだとえちごコラリアーズが伊東恵司氏の指揮で歌った演奏や合唱団「弥彦」男声メンバーが藤井宏樹氏の指揮で歌った演奏も動きを伴うステージだった。
でも今回は楽譜に指示のある照明以外は視覚的演出がなく、音で勝負という演奏。狂気が圧倒的な声の塊として描写され、終始ステージから鷲掴みにされたかのように感じた。
「Fragments」はもともと独唱曲。指揮者の宮本氏はバリトン歌手としても活動していて、独唱曲バージョンをたびたび取り上げ、CDレコーディングもしておられる。プログラムの寄稿によると、指揮者としてこの曲を振るのは初めてだった様子。ワグネルとの接点は、委嘱初演作品『ふなたび』の作詩(加藤昌則作曲)が最初だったようだ。ピアニストは宮本氏がレコーディングした折の共演者とのこと。
2nd stage:東京大学音楽部合唱団コールアカデミー
- タリスのアンセムとモテットより
- 作曲:Thomas Tallis
指揮:有村祐輔
- If ye love me (もし汝らわれを愛さば)
- Verily, verily, I say unto you (まことに汝らに告ぐ)
- Lamentation of Jeremiah (エレミアの哀歌)
エールの項でも書いた声のふくよかさが、いつもと違う。特にカウンターテノールにはソリストとしても通用しそうな人がいる。おかげで、アンサンブル全体が例年にまして立体的。
『エレミアの哀歌』は2部構成だが、このたびは第1部のみであった。
3rd stage:早稲田大学グリークラブ
- 『スポーツソング流声群! 〜ワセグリ大運動会、開幕〜』
- 編曲:堀内貴晃
指揮:田中渉(学生)/ピアノ:前田勝則
2015年以来の編曲メドレー集。視覚的演出はごく僅か。音楽的遊びが多い編曲で、しばしば客席から笑いが起きていた。演奏された曲は稲グリ新聞電子版に一部がリストアップされている。これ楽譜が出版されるといいな(著作権処理が大変かもしれないけど)。
舞台を広く使った並びのためか、突き刺すような音圧というより、ホール全体を鳴らそうとする傾向の演奏。大活躍するピアノも好サポート。
編曲者は『キリンの洗濯』で朝日作曲賞を受賞した人。公式には初めての男声合唱作品なはず。この編曲については2018年4月17日付けツイート群でいろいろ書いておられる。中でも委嘱の経緯についてのツイートが興味深く思われたので、抜粋して以下に紹介。
ありがとうございます。委嘱時に伺ったところ、全然僕の作品は知らないという話で、そこがまた面白かったし、彼らの判断が魅力的に思えました。 https://t.co/T3EGzIBqtl
— Takaaki Horiuchi堀内貴晃 (@hruch) 2018年4月16日
僕は合唱から離れて久しいので、いまの学生世代なら僕の以前の合唱作品も知らないだろうと、委嘱の打診を受けたときに訊ねてみたら「はい、知りません」とw。じゃあどうして僕に?と訊ねたら即座に「自分たちはアマチュアですがプロの指導者の先生に相談したら推薦されたのが堀内さんでした」と。
— Takaaki Horiuchi堀内貴晃 (@hruch) 2018年4月16日
アマチュアが自分たちの情報で判断してお目当ての人に頼む、これはこれでもちろん素晴らしい。けれどその一方で、自分たちの情報や判断の限界を認識して、判断そのものをプロに委ねるという方法論に僕は感心した。この方法論の方が(当たり外れはあるにせよ)自分たちの世界をより広げられるだろう。
— Takaaki Horiuchi堀内貴晃 (@hruch) 2018年4月16日
4th stage:立教大学グリークラブ
- 男声合唱組曲『内なる遠さ』
- 作詩:高野喜久雄/作曲:高田三郎/編曲:須賀敬一
指揮:田中豊輝/ピアノ:内木優子
- 飛翔 — 白鷺
- 崖の上 — かもしか
- 合掌 — さる
- 燃えるもの — 蜘蛛
- 己れを光に — 深海魚
せきが立教グリーを卒団した直後にあたる1996年、第45回六連の早稲田大学グリークラブ単独ステージで阿部昌司氏の指揮、中村有木子氏のピアノにより初演された。もちろん生で聴いている。懐かしい。
でも今回の演奏は記憶の中の初演とはずいぶん肌合いが違っていたし、高田作品でありがちな演奏スタイルとも異なるものだったと思う。レチタティーヴォを生かすためか、25名という規模に即した組み立てか、組曲全体としてやや速めなテンポ。どちらかというと独唱っぽいアプローチかな。
合唱としては、テノールのやや細めな声質も相まって、昔コルアカが録音した『野分』を思い出した。バスのずっしりした鳴りは伝統と思いたい。
この組曲は前述の定期演奏会でも新入生を加えて再演される由。ご都合のよろしい御方、11月17日に川口総合文化センターリリア大ホールへ足を運んでいただければと思います。
5th stage:法政大学アリオンコール
- 『Nidaros Jazz Mass』より
- 作曲:Bob Chilcottc
指揮:蓮沼喜文/ピアノ:越後妙子
- Kyrie
- Gloria
- Agnus Dei
SanctusとBenedictusは割愛。
指揮者のタクトに導かれ、皆さんのびのびした歌唱。昨年の『A Little Jazz Mass』はリズム隊との共演だったが、今回はピアノ1台との共演。リズム隊がいないとジャズならではのフィーリングは出しづらいきらいもあるが、窮屈さを感じさせないという時点で素晴らしい。このままもうしばらく地道に団を続けてゆけば仲間もきっと増える筈。
6th stage:明治大学グリークラブ
- 男声合唱組曲『終わりのない歌』
- 作詩:銀色夏生/作曲:上田真樹
指揮:佐藤賢太郎(Ken-P)/ピアノ:村田智佳子
- 光よ そして緑
- 月の夜
- 強い感情が僕を襲った
- 終わりのない歌
- 君のそばで会おう
2011年11月に早稲田大学グリークラブ第59回定期演奏会で初演された曲。そしてピアニストは、第8回OB六連で駿河台倶楽部が再演したときの御方。せきが聴いたのは、これらに続いて3回目。
ほぼ曲間なしの演奏は、組曲の物語性を重視するが故か。フレージングも和音も上田作品ならびにKen-P指揮ならではの繊細さ。ただ、自分の席からだとピアノに比べて声が引っ込んで聞こえた。歌い手は平場を使わず山台を1〜2段のぼり最上段まで使うほうがバランスがとれたのでは。
そういえば昨年も音量バランスのことを書いた。指揮者であるKen-P氏がそういう音楽づくりのスタイルなのかも。もっと合唱が前面に出たほうがいいように感じるのだが、あくまでも個人的な好み。
なお、譜めくりストは、歌人にして合唱指揮者でもある栗原寛氏が務めた(この段落と以下の2ツイートは2018/10/1に追記)。
譜めくりをさせていただきます! https://t.co/XACnTwKMx1
— 栗原 寛 (@hiroshi_kurihar) 2018年5月4日
六連、学生の頃は全然関わりがなかったのに、ここ数年、なんかしらで毎年いるなぁ(^o^;)
なんかしらっていうか、譜めくりですけど(笑)— 栗原 寛 (@hiroshi_kurihar) 2018年5月5日
7th stage:六大学合同演奏ステージ
- 男声合唱とピアノのための「ゆうやけの歌」
- 作詩:川崎洋/作曲:湯山昭
指揮:上西一郎/ピアノ:平林知子
上西一郎氏の指揮する音楽は、クールシェンヌによる演奏を全日本合唱コンクール全国大会で2度ほど拝聴したことがある。そこからは、かぐわしさが匂い立つように感じられる。指揮者の音楽性のおかげか、詩にも曲にも暴力性が見え隠れする「ゆうやけの歌」に品位が加わり、合唱とピアノによるファンタジーという色合いの濃い演奏になった。
ピアニストの平林氏は昨年からの続投。曲や指揮者に即し、合唱とピアノの距離感を昨年と変えてきているのが興味深い。
アンコール:合同演奏
- 鳥が
- 作詩:川崎洋/作曲:新実徳英
指揮:上西一郎/ピアノ:平林知子
「TRA RA」では花が開き、それ以外では鳥が飛び回るかの如き演奏。ピアノパートの重低音が強めなあたりで音楽を引き締めていたように感じられた。
終演直後に「アンコールは川崎洋つながり」とツイートしたら、そうだったのかという反応をいただいた。
帰りの新幹線で、眠気予防を兼ねて演奏会の感想や備忘録をツイッターに連投した。この記事はそのツイート群をもとに書き起こしたものである。5か月近く前の演奏会にもかかわらず割と詳しいことを書けたのは、そういう次第。