2023/05/06の日記:第72回東京六大学合唱連盟定期演奏会

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日帰りで六連こと東京六大学合唱連盟定期演奏会を聴いてきた。

出演者・スタッフ・来場者の皆様、お疲れ様でした。


六連を客席で聴くのは4年ぶり。前回聴いたのは2019年の第68回だったけど、このときのリポートを当ブログにもTwitter(当時)にもほとんど書いていなかった。

まだ記憶に新しい感染症騒動の影響により六連は2020年・2021年と開催が中止された。昨年2022年5月1日に第71回として開催されたものの、その時期せきは合唱の一員として参加していた『小千谷市民オペラ「カルメン」』の本番が半月ほど先に控えており、スケジュール調整が間に合わず聴きに行くのを断念した。

なお、六連は中止になった回の数字を再利用せず欠番として回数をカウントし続けている。


会場はウェスタ川越。初めて行くホール。

ただ私は川越市内に大学入学から8年ほど住んでいた。前半6年間ほどは川越市駅と本川越駅との中間地点くらいの場所、残りの2年ちょっとは新河岸駅と川越駅との中間地点くらいの場所。そんなわけで昼前に川越入りし、学生時代に暮らした場所の周辺を15時ころまで散策して過ごした。住まいだったアパートのあった場所(地番でいうと中原町2-10-10付近)が道路になっていたのには驚いた。


ようやく本題に入る。

法政大学アリオンコールが今年始めに活動休止を表明したため、単独ステージは5団体で催されたことを最初に記しておく。

エール交歓

このたびはメモを残さなかったせいもあり各団体の演奏の出来栄えについてディテールを覚えていないが、どの団体からも感染症騒動によるダメージはほぼ感じられなかったような印象。

記すことのできる唯一の具体的なトピックは、5団体が自校の校歌・カレッジソングを歌い終えたあと、OB六連の合同ステージみたいに一同で法政大学校歌を合唱したこと。しかも早稲田の一部団員を除き暗譜で。

1st stage:立教大学グリークラブ

男声合唱組曲『柳河風俗詩』
作詩:北原白秋/作曲:多田武彦
指揮:髙坂徹
  1. 柳河
  2. 紺屋のおろく
  3. かきつばた
  4. 梅雨の晴れ間

12名で健闘。

せきは髙坂さんの指揮でこの組曲を1度(1998年の第19回立教大学グリーフェスティバル)、終曲「梅雨の晴れ間」のみ1度(2001年の第22回立教大学グリーフェスティバル)歌った経験があり、髙坂さんがこの組曲を振る際にどのような解釈・指示・指導をしたか今も多少なりとも記憶に残っている。その記憶と比べると、近年の髙坂さんは表現の作り込みが著しくなっていることがよくわかる。2016年10月に男声合唱団「タダタケを歌う会」コンサート第伍で『ソネット集』を取り上げたときあたりからなんとなくそんな感じがしていたのだけれど。

端的に例を挙げると、2曲目「紺屋のおろく」冒頭。独特な歌いまわしをしていたのは、歌舞伎役者の口跡を真似るように指示されたものと思われる。せきが歌ったときも「梅雨の晴れ間」の一部についてはそのようなことがあった。

なお「日光の」はニッコウノと歌われた。2001年の第22回グリフェスでは北村協一先生経由の作曲者による指示でヒノヒカリ(Top Tenorのみヒノヒカリノ)と歌詞を変えて歌ったけれど、出版譜に反映されなかったせいなどもあってか、いつの間にか元の形に戻されている。

2nd stage:東京大学音楽部合唱団コールアカデミー+法政大学アリオンコール有志

指揮:有村祐輔
  • Ave caput Christi (作曲:Christopher Tye)
  • Domine Deus Caelestis (作曲:Christopher Tye)
  • Haec, quae ter triplici (作曲:Orlandus Lassus)

粗削りな部分は残っているが例年に引けを取らないアンサンブル。

法政大学アリオンコールが1名のみながらも参加。おかげで出演団体にアリオンの名前が残った。今回は東京大学音楽部合唱団コールアカデミーが六連の理事長団体で、パンフレット末尾の各団六連理事による挨拶ページにおいて東大の理事さんはアリオンに対する強い思い入れを込めたメッセージをつづっていた。該当箇所を含む段落だけ抜き出して以下に引用する。

昨年度の六連で多くいただいた「六大の旗が揃わなかったことが残念である」というご感想が心残りであった私は、通例を破ってでも法政大学様をこの六連に引き入れようと考え、元部員たちに快諾いただけたことで今年度の二大学合同ステージが実現することとなりましたが、アリオンコールの休団が決定した今、来年度以降同じ形式を維持できない可能性もございます。この演奏会も、参画する各合唱団も、コロナ禍の影響から決して立ち直り切れてはおらず、あるいは古いものを取り戻し、あるいは新しいものを取り入れながら前に進もうとしています。

ルネサンスのモテットはアリオンメンでなくとも馴染みの薄いレパートリーだろうに、一緒に歌った頑張りに拍手。

3rd stage:ワグネル・ソサィエティー男声合唱団(慶應義塾大学公認学生団体)

男声合唱とピアノのための『詩人の恋』より
作詩:H. Heine/作曲:R. Schumann/編曲:佐渡孝彦
指揮:金岡翼(学生)/ピアノ:濱野基行
  • 1. Im wunderschönen Monat Mai (麗しき五月に)
  • 2. Aus meinen Tränen sprießen (僕の涙から花が咲いて)
  • 3. Die Rose, die Lilie, die Taube (薔薇や、百合や、鳩)
  • 5. Ich will meine Seele tauchen (僕の魂をひたそう)
  • 6. Im Rhein, im heiligen Strome (ライン、聖なる流れに)
  • 7. Ich grolle nicht (僕は恨みはしない)
  • 9. Das ist ein Flöten und Geigen (あれはフルートとヴァイオリン)
  • 11. Ein Jüngling liebt ein Mädchen (若者が娘に恋をした)
  • 13. Ich hab’ im Traum geweinet (僕は夢の中で泣いた)
  • 15. Aus alten Märchen (古いおとぎ話から)
  • 16. Die alten, bösen Lieder (昔の忌まわしい歌)

当初は原田太郎さんが指揮する予定だったものの、体調不良により学生指揮者が振ることが本番当日になってアナウンスされた。原田さんのタクトによる再演は本年10月8日の「WAGNER FEST 2023」で予定されている。

独唱歌曲の佐渡孝彦さんによる編曲は、福永陽一郎編曲や北村協一編曲に比べるとデコレーションが控えめな傾向がある。従って原曲を独唱で歌うとき同等あるいはそれ以上の歌心が、合唱団に要求される。このたびの演奏はその点でも大健闘といえよう。

4th stage:明治大学グリークラブ

男声合唱とピアノのための組曲『鎮魂の賦』
作詩:林望/作曲:上田真樹
指揮:佐藤賢太郎/ピアノ:村田智佳子
  1. 時の逝く
  2. 家居に
  3. 鎮魂の呪
  4. 死は安らかである
  5. 春の日

それなりに人数がいるほうが聴き映えする曲ではあるが、11名で歌うのも味わい深い演奏。いかにもスタミナが要りそうな組曲を立派に歌いきった。

この組曲、せきは「家居に」だけ混声合唱版で歌った経験がある。当時から男声合唱でも面白そうだなと感じたし、いくつか上田作品を聴いたり歌ったりしてこの作曲家は男声合唱に適しているというイメージを持っているが、そのイメージを裏切らないサウンド。

5th stage:早稲田大学グリークラブ

『WASEGLEE ROCK FESTIVAL!!』
編曲・構成・ピアノ:田畠佑一
指揮:宮崎歩(学生)/ドラムス:篠崎智/構成・ギター:上間創(学生)

3年生の学生指揮者の指揮で、ギター(エレキとアコギの持ち替え。4年生の学生指揮者による)、ピアノ、ドラムスによるジャパニーズロックメドレー。4楽章編成で、楽章が進むにつれ時代を遡るという選曲・構成。私が知っていた原曲は4割くらいかな。ちゃんと合唱が鳴っていた。

演目はパンフレットに記載されず、終演後にTwitter改めXへのポストで公表された。

今回の編曲は、田畠さんが朝日作曲賞を受賞する前に頼んでいたとのこと。早稲田大学グリークラブは田畠さんにオリジナル合唱作品『世界から忘れ去られて』も委嘱している。今年12月26日の第71回定期演奏会で初演予定。つまり年度を通してのおつきあいということになる。今に始まったことではないが、早稲グリのアンテナ感度には脱帽ものである。

6th stage:六大学合同演奏ステージ

男声合唱とパーカッションのための『この日を捕えよ』
作詩:谷川俊太郎/作曲:田中達也
指揮:山脇卓也/打楽器:篠崎智

2020年の予定だった委嘱新作の初演が、同年および翌年の演奏会中止、および昨年の合同演奏見送りを経て、今年ようやく実現できた。しかも当初予定されていた通りの指揮者・打楽器奏者により。

共演打楽器はティンパニ、小太鼓、サスペンディドシンバル、ウインドチャイム、トライアングル、ビブラホン他。これらを一人で持ち替え、ビート感を補ったり声と違う音色を加えたりなど八面六臂の大活躍。作曲者が「男声合唱+打楽器」という編成でやりたいことをあらん限り盛り込みまくったかのような趣がある。

作曲者がパンフレットへ寄稿したところによると、谷川俊太郎の生み出すことばの中には“S”の子音がもたらす独特の空気感があり“S”は「生」「死」の二面性をまとうようにも感じられる由。それらを念頭においた構成・作曲とのこと。そんなわけで、田中作品としては重たさやシリアスさが濃い部類に属するサウンドで、ポップさや洒脱さのイメージがある人は驚くかも。

“S”から「生」「死」を想起したことを一例として、田中さんは日本語の音韻に関する独自の鋭敏さをお持ちで、作編曲専業になってからは表に出すことが減ったものの、二足の草鞋を履いていた頃は駄洒落等の言葉遊びを時々ツイートして(すなわちXにポストして)おられた。

「生」「死」は感染症やウクライナ侵攻に端を発する戦禍や災害など、作曲された時よりも身近さが強まっている昨今ゆえ重みが増したし、それゆえ今後も再演されてゆくべき作品であるように感じられる。

アンコール:合同演奏

Bohemian Rhapsody -for TTBB Choir and Piano-
作詞・作曲:Freddie Mercury/編曲:田中達也
指揮:山脇卓也/ピアノ:田畠佑一/ドラムス:篠崎智

初演が成功裡に終わり、作曲者を客席から呼んで握手などしたあと、山脇さんによるスピーチ。大学合唱団の現状を訴えたり、六連現役生への支援を呼びかけたりしたのち「田中さんは素晴らしい編曲家でもありまして」という曲紹介に続けて、舞台袖から田畠さんを呼んで演奏開始。

この編曲、お江戸コラリアーずが2019年に委嘱・初演したことは知っていたが(ただしドラムスを加えての演奏は今回が初めてかも)、地方在住民にとって再演されるチャンスには巡り合えないのではとあきらめていた。にもかかわらずこうして聴け、ありがたや。

最近、田中さんが編曲をするにあたっての方針を「原曲を聴いたときと同じ景色が見えるように」と語っているのを聞いた。まさしくその方針に沿ったアレンジ。そして作編曲者いわく。



最後に付記。活動休止を表明した法政大学アリオンコールは六連終演後、インターカレッジサークル(略してインカレ:特定大学の枠にとらわれないサークル)として活動再開を表明した。なお、混声合唱団としての活動は活動休止の少し前に蓮沼喜文氏を招聘してから展開しているもの。

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