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NHK全国学校音楽コンクール、およびそれに付随するTV番組や催し物についての記事。

「Nコン2010全国コンクール」TV観覧記: 中学校の部

「Nコン2010全国コンクール」TV観覧記: 中学校の部

Nコン2010こと第76回NHK全国学校音楽コンクール中学校の部の全国大会TV中継を、ところどころツイッターで実況しつつ視聴しました。なお、小学校の部は都合がつかず観覧断念。

課題曲

技術的なチェックポイントはリズム面、特に16分音符の多用とシンコペーションでしょうね。ほか、いくつかの実演で気になったのは、ロングトーンで音程が保ちきれない団がいくつかあったのと、テンポがゆっくりになる直前「Ah」と歌うくだりでSopranoのGがしゃくって入る団があったこと。

以上の基準において、せきの耳には神奈川県清泉女学院中学校が抜群、次いで千葉県松戸市立第一中学校が高評価に聴こえました。金賞の福島県郡山市立郡山第二中学校は男声のピッチぶら下がりが散見されたんですけど、おそらく自由曲で点を稼ぎカバーしたのでしょう。

この曲は歌詞に「you」という単語がよく登場しますが、もうちょっと丁寧に歌ったほうがよかったと思います。どこも子音が飛ばなかったり母音が浅かったり。伸ばす途中でいきなり音量を落とす演奏もありましたけど、個人的には疑問です。

混声版と女声版を聴き比べたところだと、編曲者・上田真樹氏って混声よりも同声のほうが書きやすいのではという印象を持ちました。そういえば、かつて新潟ユース合唱団で「家居に」を歌った時、男声合唱で配音したほうが演奏効果が挙がるのにと思うことがしばしばでしたっけ。

自由曲

演奏については、皆さん手堅く歌いこなしていたと思います。

選曲傾向が前回から大きく変わりましたね。昨年は散見された鈴木輝昭作品が今回は1団体だけ。個人的にびっくりした選曲は、熊本県山鹿市立山鹿中学校(信長貴富「くちびるに歌を: わすれなぐさ」)、福島県郡山市立郡山第二中学校(Francis Poulenc「Messe en Sol Majeur: GLORIA」)、千葉県松戸市立第一中学校(Eric Whitacre「hope, faith, life, love」、Jaakko Mantyjarvi「El Hambo」)。「El Hambo」はNコンで取り上げたこと、それ以外の3曲は中学生が取り上げたことに驚きました。

海外作品が多いのを見て、全日本合唱コンクール新潟県大会の講評で岸信介審査員が「選曲が邦人ものに偏っていると思う。もう少し海外に目を向けては?」とおっしゃったのを思い出しました。今回と逆の現象が起きてるわけで、興味深いところです。

審査待ちコーナー

まずは出場団体からの選抜メンバーで構成される一日限りの合唱団で、大塚愛作品から「フレンズ」を上田真樹アレンジで。選曲も編曲も素晴らしいです。この譜面が出版されたら取り上げる団体がたくさんいそう。

次いで、大塚さんが登場。山田賢治アナウンサーのインタビューにこたえたあと、弾き語りによる特別バージョン(途中でコーラス隊が加わる)で「アイ・ラヴ」を生演奏してました。個人的にはこのアレンジのほうが課題曲版よりも合唱化したときの演奏効果が高そうな感じもしましたが、上田氏による課題曲版は課題曲としての技術的ポイントがちゃんと想定されているのでこれはこれで良いとも思います。

放送席ゲスト

今回は専門的な解説担当が清水敬一さん、素人目線担当が森下千里さん。TV的な役割分担はさすがです。

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その3

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その3

今日8月1日からNHK「みんなのうた」で大塚愛さんが歌う「I ♥ ×××」が流れ始めました。こちらのバージョンは9月8日にシングルとしてCDリリースされることが発表されています。

そんな頃合いに、当ブログでこの曲について書き連ねる連作記事の第3弾です。


合唱版の演奏について

既に公開の場で「I ♥ ×××」を歌っている合唱団が続々と現れています。せきも新潟県合唱祭で2団体ほど実演に接しました。技術的なポイントと思われる点を「2010/06/20の日記(その2)」に感想という形で少し述べていますので、ご参考にどうぞ。

歌詞

フジテレビ系バンクーバー五輪中継イメージソング「LUCKY☆STAR」と共通する言い回しがたくさん見受けられます。詩の解釈には役立つことでしょう。

という指摘を第1弾記事「Nコン2010 – I ♥ ×××(アイ・ラヴ)」で書いたときは判断を留保していたのですが、もしかすると最近の大塚さんは自己模倣の多用に陥っているのかもしれません。そう感じるようになった理由は次項で。

メロディ

このところ2ちゃんねる界隈を中心に「『I ♥ ×××』は、NHK『みんなのうた』で流れた『チグエソ 地球の空の下で』の盗作であろう。だから『I ♥ ×××』を課題曲から外させよう」などと息巻く連中がいるようです。YouTubeにある動画(NHKの著作権を侵害している可能性が大きい動画なのでURL紹介は差し控える)を見ると、確かにAメロは似ています。

ただ、せき個人は「I ♥ ×××」の問題の箇所について大塚さん自身の曲「クラゲ、流れ星」のサビと同じパターンと認識しています。合唱版「I ♥ ×××」前半と「クラゲ、流れ星」転調前はキーが同じヘ長調、比較に好都合です。さらに「I ♥ ×××」では8分音符ひとつに複数音節(「いつ」「たひ」「とり」など)をはめ込む形で記譜されており、譜面の見かけは聴覚的印象以上に似通っているように思います。

なお、「クラゲ、流れ星」は2008年にリリースされたシングルですが、『2004年に作って、そこから4年間ずっと息を潜めていた楽曲』だそうです。「チグエソ」は2006年に発表された曲。そんな経緯からみて「クラゲ、流れ星」が「チグエソ」の影響下にあるとは考えにくいし、「クラゲ、流れ星」と「チグエソ」のどちらが「I ♥ ×××」により特徴を与えやすいかといえば当然自作のほうでしょう。

ついでに付け加えると《どんなに離れていたって》の音型は、「ゾッ婚ディション」(前述「LUCKY☆STAR」カップリング曲)のサビ《あなたとゾッ婚したい》(缶チューハイのCMに使われている部分)の変形だと思います。


過去に書いた関連記事への補足・訂正

「I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2」後半で、編曲者にどういう形で納品されたかについての疑問を記しました。

その後、編曲者・上田真樹さんのブログ「樂樹記」2010年3月22日付け記事「課題曲収録:に以下の記述があることに気づきました。

今回の合唱編曲、大塚愛さんの原曲とはかなり違ったものになっています。
(といっても、原曲を聴いたことがある人の方が少ないけど。)
ポップス曲を合唱でも歌えるように編曲してみました、
というのではなくて、
原曲のエキスから合唱曲を書いてみました、
というくらいの気持ちで編曲したつもりです。

『原曲』という言い回しから、大塚さん本人が歌唱するバージョンはかなり早くにアレンジやレコーディングがなされ、上田さんのもとへはレコーディング済みの音源が渡されたであろうことが読み取れます。

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2

NHK学校音楽コンクール2010年度中学校の部の課題曲について書いた記事へアクセスいただく方が多いので、続編を書くことにします。

「I ♥ ×××」は「みんなのうた」との共同制作楽曲という扱いで、セルフカバー版が今年8・9月の「みんなのうた」で流れるとのこと。おそらく秋ごろにシングルカットされるのでしょう。

この記事は「I ♥ ×××」が「みんなのうた」で流れる時期に合わせて公開するつもりでしたが、いくつか思うところあって前倒ししました。

理由の一つは、この6月25日に作者・大塚愛さんがSUさん@RIP SLYMEとの入籍を発表したことです。ご結婚おめでとうございます。


ゴールデンウィークの特別番組

今年の4月29日および5月5日にNHK総合で放映された「Nコン2010スペシャル 合唱のちから」目玉の一つとして、「I ♥ ××× (アイ・ラヴ)」の、大塚愛さんによるセルフカバー版の初公開がなされました。こんなに早い時期にセルフカバーが発表されるのは初めてじゃないでしょうか。合唱版とほぼ同時進行でセルフカバー版も作られていたようで、レコーディングの模様がちらっと映っていました。せきは5月5日の再放送で聴きました。

セルフカバー版ライブの前に、大塚さんが女声3部合唱版の練習場を訪問した模様のVTRが流れていました。合唱版を聴いた大塚さんの感想は「映画みたい。ストーリーの流れがはっきりしてる」。指揮者・大谷研二氏は大塚さんを前に「ラララの部分はゴスペルっぽくやろうか。振り付けを入れてもいいね」と言ってましたね。そして、セルフカバー版「I ♥ ×××」のライブ映像を見たスペシャルゲストのアンジェラ・アキさんいわく「今までの課題曲と違う匂いがする。きっとみんな楽しんで歌えるんじゃないかな」と。

それ以外の番組の模様については「Nコンブログ〜NHK全国学校音楽コンクール合唱ファンブログ〜」『Nコン2010スペシャル「合唱のちから」、観ましたか?ちょこっとレビューを。』に「ちょこっと」なんてご謙遜というボリュームの詳細なリポートがあるので、本記事では割愛します。

合唱版とセルフカバー版の比較

セルフカバー版「I ♥ ×××」はオーソドックスなミディアムバラードです。「ボレロ」みたいにバックの楽器が徐々に加わってゆくことで高揚の幅が大きいアレンジになっています。後半で加わるコーラス隊に「Happy! Happy! Smileで!」と指示するあたりは大塚さんらしい演出だと思いました。

合唱版はなぜかセルフカバー版よりもポップス色の強さを感じさせます。また、単にハモり・掛け合いとピアノ伴奏を加えるのにとどまらない、上田真樹さん独自のアレンジがかなり加わっています。『最初から〜』で何度も歌詞を繰り返しながら転調するくだりが分かりやすいですね。最後にAmen終止(I – IV – I のコード進行)で「My Dream」と歌うのもセルフカバー版にはなく、これも編曲者による創意と思われます。

この曲がどんな形で編曲者のもとへ納品されたか、直接せきは存じません。ただ、大塚さんの別作品に関するインタビュー記事で『私はいつもピアノでコードを付けながら歌を入れて、それからアレンジを頼む』とあるので、今回もそんな感じで、少なくともコードネームを書き添えた歌詞カードと弾き語りデモテープが納品されたものと思われます。五線に起こした形のメロディ譜が渡されたかどうかまでは分かりません。


まだ書きたいことはあるんですが、ここまでで既に結構なボリューム。なおかつどう急いでもジューン・ブライドの6月中には全篇完成が間に合わないので、区切りのいいところまでで公開することにします。さらなる続きは今しばらくお待ちを。


2010年8月1日追記:さらなる続きを「I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その3」として公開し、そこで楽曲が編曲者にどういう形で納品されたかについての補足を書きました。

発表! Nコン2010課題曲

発表! Nコン2010課題曲

本日午前中にNHK教育テレビで放映された「発表! Nコン2010課題曲」を視聴しました。

かつては合唱団の参考演奏と、作詞者による詩の朗読と、作詞者・作曲者・指揮者によるメモや演奏上のポイントを流す番組だったのですが、昨年からは様々な情報を取り込んでバラエティ色を帯びた番組になってます。

作者コメントのボリュームが減ったのは、ポジティブに深読みすれば「そういうことは演奏者自身で答えを探そう」というメッセージがこもっているのかもしれません。

番組内で取り上げられた情報の中では、浄書譜作成のプロセスと、フリー参加・フリー部門(自由曲だけor課題曲だけ歌える、人数制限オーバーでも可)の紹介が印象に残りました。

課題曲については長くなるので別々のエントリにまとめました。

Nコン2010 – いのちのいっちょうめ

Nコン2010 – いのちのいっちょうめ

第77回NHK全校学校音楽コンクール小学校の部の課題曲について。

司会者兼リポーター・パックンマックンのパックンが練習を見学するところで、譜面を見て、8分の12拍子に驚いていました。

確かに8分の12拍子は馴染みが薄いし、少なくとも小学校の指導要領では扱わないことになっている拍子のような気がしますが、付点4分音符1拍の4拍子ととらえればどうってことはありません。

また、パックンがNHK東京児童合唱団に交じって最初に歌った時、小学生の団員からリズム感の悪さを指摘され、歌詞「LA」ばかりで歌わされていました。

8分の12拍子の1拍にあたる付点4分音符は8分音符3つずつに細分化されます。3連符系のリズムに乗ってインテンポを保つのはなかなか難しいもので、それなりにトレーニングが必要なことが見ていて伝わってきました。

作者コメント

作詞者:里乃塚玲央氏
  • 「小学生は命の王様」
  • 「小学生が楽しく歌える詩を心掛けた」
作曲者:横山裕美子氏
  • 「詩を先にいただいて作曲した」
  • 「作曲に当たっては、詩のわくわくどきどき感を生かした」

曲全体に関するせきの感想

いろんなレベルで味わえる、素晴らしい曲ですね。気軽にも歌えるし、その気になればいくらでも突き詰めた音楽づくりができる。

突き詰めた音楽づくりをしたい場合、移り変わる情景一コマ一コマを歌い分ける幅広い表現力が要求されそうに見受けられます。表現力が問われるポイントをひとつ端的に挙げるなら、曲の途中で符頭が×で表記されている箇所の扱い。

昨年の全国大会を見ている限りだと、多くの学校が取り上げた「風と人のオペラ」表題曲で特に、この幅広い表現力に難を感じた団ばかりだったような印象があるので(主として指揮者の問題かな?)、今回の課題曲はいい勉強になるのではと感じました。