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I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その3

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その3

今日8月1日からNHK「みんなのうた」で大塚愛さんが歌う「I ♥ ×××」が流れ始めました。こちらのバージョンは9月8日にシングルとしてCDリリースされることが発表されています。

そんな頃合いに、当ブログでこの曲について書き連ねる連作記事の第3弾です。


合唱版の演奏について

既に公開の場で「I ♥ ×××」を歌っている合唱団が続々と現れています。せきも新潟県合唱祭で2団体ほど実演に接しました。技術的なポイントと思われる点を「2010/06/20の日記(その2)」に感想という形で少し述べていますので、ご参考にどうぞ。

歌詞

フジテレビ系バンクーバー五輪中継イメージソング「LUCKY☆STAR」と共通する言い回しがたくさん見受けられます。詩の解釈には役立つことでしょう。

という指摘を第1弾記事「Nコン2010 – I ♥ ×××(アイ・ラヴ)」で書いたときは判断を留保していたのですが、もしかすると最近の大塚さんは自己模倣の多用に陥っているのかもしれません。そう感じるようになった理由は次項で。

メロディ

このところ2ちゃんねる界隈を中心に「『I ♥ ×××』は、NHK『みんなのうた』で流れた『チグエソ 地球の空の下で』の盗作であろう。だから『I ♥ ×××』を課題曲から外させよう」などと息巻く連中がいるようです。YouTubeにある動画(NHKの著作権を侵害している可能性が大きい動画なのでURL紹介は差し控える)を見ると、確かにAメロは似ています。

ただ、せき個人は「I ♥ ×××」の問題の箇所について大塚さん自身の曲「クラゲ、流れ星」のサビと同じパターンと認識しています。合唱版「I ♥ ×××」前半と「クラゲ、流れ星」転調前はキーが同じヘ長調、比較に好都合です。さらに「I ♥ ×××」では8分音符ひとつに複数音節(「いつ」「たひ」「とり」など)をはめ込む形で記譜されており、譜面の見かけは聴覚的印象以上に似通っているように思います。

なお、「クラゲ、流れ星」は2008年にリリースされたシングルですが、『2004年に作って、そこから4年間ずっと息を潜めていた楽曲』だそうです。「チグエソ」は2006年に発表された曲。そんな経緯からみて「クラゲ、流れ星」が「チグエソ」の影響下にあるとは考えにくいし、「クラゲ、流れ星」と「チグエソ」のどちらが「I ♥ ×××」により特徴を与えやすいかといえば当然自作のほうでしょう。

ついでに付け加えると《どんなに離れていたって》の音型は、「ゾッ婚ディション」(前述「LUCKY☆STAR」カップリング曲)のサビ《あなたとゾッ婚したい》(缶チューハイのCMに使われている部分)の変形だと思います。


過去に書いた関連記事への補足・訂正

「I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2」後半で、編曲者にどういう形で納品されたかについての疑問を記しました。

その後、編曲者・上田真樹さんのブログ「樂樹記」2010年3月22日付け記事「課題曲収録:に以下の記述があることに気づきました。

今回の合唱編曲、大塚愛さんの原曲とはかなり違ったものになっています。
(といっても、原曲を聴いたことがある人の方が少ないけど。)
ポップス曲を合唱でも歌えるように編曲してみました、
というのではなくて、
原曲のエキスから合唱曲を書いてみました、
というくらいの気持ちで編曲したつもりです。

『原曲』という言い回しから、大塚さん本人が歌唱するバージョンはかなり早くにアレンジやレコーディングがなされ、上田さんのもとへはレコーディング済みの音源が渡されたであろうことが読み取れます。

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2

NHK学校音楽コンクール2010年度中学校の部の課題曲について書いた記事へアクセスいただく方が多いので、続編を書くことにします。

「I ♥ ×××」は「みんなのうた」との共同制作楽曲という扱いで、セルフカバー版が今年8・9月の「みんなのうた」で流れるとのこと。おそらく秋ごろにシングルカットされるのでしょう。

この記事は「I ♥ ×××」が「みんなのうた」で流れる時期に合わせて公開するつもりでしたが、いくつか思うところあって前倒ししました。

理由の一つは、この6月25日に作者・大塚愛さんがSUさん@RIP SLYMEとの入籍を発表したことです。ご結婚おめでとうございます。


ゴールデンウィークの特別番組

今年の4月29日および5月5日にNHK総合で放映された「Nコン2010スペシャル 合唱のちから」目玉の一つとして、「I ♥ ××× (アイ・ラヴ)」の、大塚愛さんによるセルフカバー版の初公開がなされました。こんなに早い時期にセルフカバーが発表されるのは初めてじゃないでしょうか。合唱版とほぼ同時進行でセルフカバー版も作られていたようで、レコーディングの模様がちらっと映っていました。せきは5月5日の再放送で聴きました。

セルフカバー版ライブの前に、大塚さんが女声3部合唱版の練習場を訪問した模様のVTRが流れていました。合唱版を聴いた大塚さんの感想は「映画みたい。ストーリーの流れがはっきりしてる」。指揮者・大谷研二氏は大塚さんを前に「ラララの部分はゴスペルっぽくやろうか。振り付けを入れてもいいね」と言ってましたね。そして、セルフカバー版「I ♥ ×××」のライブ映像を見たスペシャルゲストのアンジェラ・アキさんいわく「今までの課題曲と違う匂いがする。きっとみんな楽しんで歌えるんじゃないかな」と。

それ以外の番組の模様については「Nコンブログ〜NHK全国学校音楽コンクール合唱ファンブログ〜」『Nコン2010スペシャル「合唱のちから」、観ましたか?ちょこっとレビューを。』に「ちょこっと」なんてご謙遜というボリュームの詳細なリポートがあるので、本記事では割愛します。

合唱版とセルフカバー版の比較

セルフカバー版「I ♥ ×××」はオーソドックスなミディアムバラードです。「ボレロ」みたいにバックの楽器が徐々に加わってゆくことで高揚の幅が大きいアレンジになっています。後半で加わるコーラス隊に「Happy! Happy! Smileで!」と指示するあたりは大塚さんらしい演出だと思いました。

合唱版はなぜかセルフカバー版よりもポップス色の強さを感じさせます。また、単にハモり・掛け合いとピアノ伴奏を加えるのにとどまらない、上田真樹さん独自のアレンジがかなり加わっています。『最初から〜』で何度も歌詞を繰り返しながら転調するくだりが分かりやすいですね。最後にAmen終止(I – IV – I のコード進行)で「My Dream」と歌うのもセルフカバー版にはなく、これも編曲者による創意と思われます。

この曲がどんな形で編曲者のもとへ納品されたか、直接せきは存じません。ただ、大塚さんの別作品に関するインタビュー記事で『私はいつもピアノでコードを付けながら歌を入れて、それからアレンジを頼む』とあるので、今回もそんな感じで、少なくともコードネームを書き添えた歌詞カードと弾き語りデモテープが納品されたものと思われます。五線に起こした形のメロディ譜が渡されたかどうかまでは分かりません。


まだ書きたいことはあるんですが、ここまでで既に結構なボリューム。なおかつどう急いでもジューン・ブライドの6月中には全篇完成が間に合わないので、区切りのいいところまでで公開することにします。さらなる続きは今しばらくお待ちを。


2010年8月1日追記:さらなる続きを「I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その3」として公開し、そこで楽曲が編曲者にどういう形で納品されたかについての補足を書きました。

Nコン2010 – I ♥ ×××(アイ・ラヴ)

Nコン2010 – I ♥ ×××(アイ・ラヴ)

第77回NHK全校学校音楽コンクール中学校の部の課題曲について。

数日前にNコン公式サイトで歌詞が発表されたとき、唖然とする人や「だから大塚愛はダメだと言ったのに」みたいな拒絶反応を示した人が結構いました。

せきはそういう声を黙って傍観しておりました。テクスト単品で読むなら文学的価値を認めがたいコトバでも曲が付くことで生命が吹き込まれる事例は世の中にごまんとあり、作品の良しあしを判断するのは完成品を聴いてからでも遅くなかろうと判断したからです。

まあ一応、傍観中は表に出さなかった、せきが歌詞だけ見た時点での感想も書き留めておくと。

大塚愛のヒット曲はぶっ飛んだ表現が印象的なものが目につくんですけど、実は愛(作詞・作曲では名字なしでこの名義)氏が書く歌詞って英単語の利用は控え目な傾向があるんですよね。

なので、やたら「I ♥ ×××」に横文字が多いのは意図的なものなんだろうなと認識しております。

フジテレビ系バンクーバー五輪中継イメージソング『LUCKY☆STAR』と語彙の重複が多いのも事実なわけですが、姉妹作として狙ったものか単なる二番煎じかは判断しかねます。

「XXX」は英語では卑猥な伏せ字としても使われるだの「lover」は愛人って意味もあるだのという理由から中学生が歌うにはふさわしくないという評も見かけましたが、昨年度の高校の部の課題曲「青のジャンプ」が飛び降り自殺を推奨するみたいな歌詞だとかいうのと同じで、つまらない言いがかりでしょう。「×××」は卑猥じゃない単語の伏せ字として使われることもあるし、「lover」は恋人という意味で使われることもあります(例:ミュージカル「New Moon」の代表曲かつジャズのスタンダードナンバーである「Lover Come Back to Me」)。

ひとつ疑問なのは、この歌詞のどこにテーマ「いのち」が登場するのやらということです。番組で流れた作詞・作曲者のVTRコメントに「いのち」という語句は出てこず、この疑問は解消されませんでした。

作者コメント

作詞・作曲者:愛(大塚愛)氏
  • 「“愛”は自分の名前に使われていることもあり、生まれてからずっと大切なテーマ」
  • 「愛はいちばん手に入れるのが難しいもの」
  • 「中学生の皆さんには、どれだけ自分が幸せに囲まれていて幸せをつかんでいるか、今ある好きなものを歌にして自分の幸せを再認識してほしい」
編曲者:上田真樹氏
  • 「(参考演奏の実演を聞いて)包み込むようなあったかい演奏だった」
  • 「この曲はメロディが魅力」
  • 「三十何回も歌われる『I LOVE YOU』を、合唱でしか出せないような表現で歌ってほしい」

曲全体に関するせきの感想

編曲者が「いただいた曲はメロディが魅力」とおっしゃっていた通りで、詞が曲と組み合わさると、何ら抵抗も違和感もない、一つの歌として成立してますね。どっちかというと、シングルのカップリング、もしくはアルバムだけに収録されるタイプって曲のような気もしますけど。

そして、上田氏のアレンジは、原曲の持ち味を生かしつつ、各パートに見せ場を与えたり掛け合いを用いたりなどの技を駆使することで合唱曲としても聴いて歌って楽しいものになっていると思います。

近年だとポップス畑の人による課題曲は作者自身がセルフカバーするのが通例になっていますが、セルフカバーが今回の合唱版を超える説得力を持つには、かなりアレンジのハードルが高いのではないでしょうか。

技術面では発音・発語、具体的にはポップスでありがちな細かいリズムでの歌詞にしばしば出てくる促音と英単語の処理が難しそうです。

大谷研二先生が指揮した演奏では冒頭でハスキーな声色を用いてました。おそらく指揮者の演出だろうと推測しますが(かつて大谷先生の指揮によりスペシャルステージでポップス編曲を歌ったときにそういう指示をしたことが根拠。はずれてたらごめんなさい)この曲には似つかわしくないように聴こえました。


2010/08/01付記:曲の終わりのコード進行について間違ったことを書いてしまったので、関係する一文を消しました。ついでにタグを追加し、「×××」と「lover」について加筆。