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NHK全国学校音楽コンクール、およびそれに付随するTV番組や催し物についての記事。

ハモリ倶楽部 6月号

ハモリ倶楽部 6月号

いまさらながら、「Nコンマガジン ハモリ倶楽部」の、先月18日に放映された回について。
NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)PR番組という名目ではありますが、実質的には中高生向けの合唱情報バラエティってほうが近いですね。中高生じゃなくても楽しめると思います。
まず「全国のユニークな合唱部」として、仙台市立西山中学校男声合唱団を訪問したルポVTR。
Nコンは男声合唱団の参加が極めて少ないというのが衝撃的でした。中学・高校全団体のうち男声合唱団は0.4%だそうで。つい最近、第61回〜第75回(平成6〜20年度)の課題曲集が出版されたんですが、高校男声のだけ出版されなかったのはこういう背景なのでしょうね。もっとも、どっちにしろ男声合唱が冷遇されていることには変わりないわけで、男声合唱愛好者としてはとても残念な思いをしました。
ルポVTRを踏まえ“合唱と男子”をテーマに小ディスカッションが行われましたが、「男声合唱団の参加が極めて少ない」→「合唱に消極的な男子生徒が多い」という話題の転換が無自覚になされ、話がすりかわった(人聞きの悪い表現ですみません)かのような印象を受けました。
そこから、男声が加わるとアンサンブルに厚みが出ることを、本年度中学校の部課題曲「YELL」を題材に出演者一同で実演したんですが、実演した箇所では男声がスキャットだけ。どうせなら全員が縦割りでハモる場所を歌うほうが説得力が増すだろうに。
そういえば、なんか妙に木下牧子作品がフィーチャーされてましたね。西山中学校男声合唱団の練習風景では「サッカーによせて」(曲集「地平線のかなたへ」より)を歌っていたり、顧問としてちょこっと出演した辻秀幸氏が「ロマンチストの豚」を歌いながら登場したり。
続いて、ハモリ隊を名乗る若手女性タレント5名のうち2名がウィーン少年合唱団来日公演の舞台裏におじゃました模様のVTR。
昨年度中学校の部課題曲「手紙」を取り上げたことが紹介されていました。唯一の日本人団員であるカイ・シマダくんによる発音指導および歌詞解説の甲斐あって、なかなかさまになった演奏でした。
最後に「ロングトーンバトル」という対決企画。
どれだけ長く一息で音を発声できるかを競うもので、全国の合唱部員9名がVTRで出場しました。
せっかく声楽家の先生をお呼びしているのですから(このコーナーには出ておられませんでしたが)初回ということでコツなどを解説していただけるともっとよかったのではと思います。
次回は今月25日。都合がついたら見るつもりです。

春だ! ジャンプだ! 合唱だ!

春だ! ジャンプだ! 合唱だ!

2009年度NHK学校音楽コンクールの課題曲をお披露目する番組「春だ! ジャンプだ! 合唱だ! ——Nコン2009開幕!——」を、ようやく昨日5/09の再々放送で、家でデスクワークをしながら見ました。

番組最後に、先月オンエアが終わった課題曲解説番組の宣伝をそのまま流していたのは、さすがにまずいと思いました。


小学校の部の課題曲が2曲から選ぶ方式になった理由について知らずにいたままでしたが、オンエアで説明があったのですね。
経緯を記しておくと、作詩者の覚氏がA案・B案みたいな感じで詩を2つ書いて持っていったところ、作曲者の千住氏が「どちらも素晴らしい詩だから両方に曲をつけよう」ということになり、2曲ができたということだそうです。で、キャラクターが異なる歌なので、歌い手の個性に合うほうを選んでもらおうということでああなったと。
「ここからいちばん とおいところ」と「夢の太陽」は、将来もしかしたら兄弟姉妹にあたる曲が書き足されて組曲にまとめられるのではないかという予感がしました。


中学校の部の課題曲や、いきものがかりの説明については、『いきものがかりの合唱部にエール!』と重複する映像がありました。

鷹羽氏によるアレンジは、原曲の持ち味を最大限に生かしつつ(合唱として歌われることを想定して書かれたものである点を差し引いても)合唱曲としての演奏効果も遺憾なく発揮される見事なものだと思います。ポップスの合唱編曲って往々にしてダサさや野暮ったさが付きまとってしまうんですが、昨年の「手紙」も今年の「YELL」もそういう劣化が感じられない。


高校の部の課題曲は、あの詩に寄り添って作曲するとああいう曲になるんだなと思いました。池辺晋一郎氏や多田武彦氏らが「詩の流れや場面転換に沿って音楽を切り替える」みたいな発言を時折しますが、その具体例ですね。

詩そのものは1990年代のガールポップやバンドにありそうな感じで、ポップスやロックとしてなら終始アップテンポに作曲するアーティストがいても不思議はないかな。

せきは大島ミチル氏を「Shalion」(昔フジテレビ系列で放映していた「ワーズワースの庭で」「ワーズワースの冒険」の主題歌)で知ったので、異国情緒を感じさせる作風という印象を抱いていました。男声合唱界に足を踏み入れてから聴いた「御誦」や「パパラギ」は、その印象を裏打ちする要素が多いように思います。もっとも、1990年代あたりから劇音楽を積極的に手がけるようになってからの大島作品はここまでに書いた印象とは異なる方向に展開していて、「あの空へ 〜青のジャンプ〜」も異国情緒は皆無です。むしろ劇音楽作家ならではの引き出しの多さが感じられます。


小学校の部の課題曲選択制といい、高校の部の課題曲でアドリブのスキャットやボディパーカッションが取り入れられたことといい、歌い手の個性・自発性を引き出そうとする傾向が感じられます。おそらくは、昨年の中学校の部の参考演奏で、楽譜にない手拍子(この手拍子は、作者によるセルフカバーでも若干リズムを変えた形で反映された)を指揮者・雨森文也氏が付け足したことが影響しているのでしょう。いずれ、柴田南雄氏の「追分節考」「北越戯譜」や高橋悠治氏の合唱作品群みたいに、楽節の断片がバラバラに提示された形の譜面から歌い手が自由に音楽を組み立てるようなものが課題曲になることがあるのかもしれないですね。


アドリブといえばで蛇足ですが、「御誦」には、ピアノとパーカッションがアドリブで応酬しあうインプロビゼーション部分が、作曲後の改訂で挿入されたはずです。せき自身は演奏経験がなく(立教大學グリークラブOB男声合唱団がOB六連で演奏したとき、せきは客席で聴いておりました。OB男声と疎遠になっていたため練習には全く参加せず)譜面を見たことしかないので詳細は記憶にありませんが。

いきものがかりの合唱部にエール!

いきものがかりの合唱部にエール!

さきほどNHK総合で放映された「NHK全国学校音楽コンクールスペシャル『いきものがかりの合唱部にエール!』」を見ました。

中学校の部の課題曲作者が全国各地の合唱部を訪問するというものです。昨年もアンジェラ・アキさんが同じ趣旨の番組をやってましたね。

前半は島根県出雲市立第一中学校合唱部へ。副部長がNHKに手紙を送ったそうで、それに応えての訪問でした。初めて課題曲を歌うステージ(4/11のスプリングコンサート)が間近だそうで「作者がどういう思いを込めて曲を作ったか知りたい」とのことでした。それに対し、作詞作曲者であるリーダーの水野さんいわく「作者がどんな思いでこの曲を書いたかを考えてくれてると思うんだけど、僕が考えてることはどうでもいい、歌うのは君ら」。

せき個人は常日頃から、安直に作者本人から答えを教わろうとすることに疑問を抱いています。作者自身が答えを示すのは簡単だけど、考えたり調べたりなどして答えを探すプロセスに意味がある、そう考えるからです。なので、水野さんの答えはさすがだと思いました。

中盤は、ボーカルの吉岡さんが中学時代に合唱部で活動していて(部長だったそうです)、NHK全国学校音楽コンクール中学の部の課題曲にかかわることに特別な思いを抱いているというエピソードの紹介。

『いきものがかりの合唱部にエール!』内では紹介されなかった情報を補足すると、吉岡さんはとにかく歌が大好きで、合唱活動と並行してミュージカル劇団でも歌っていました。高校に入ってから、吉岡さんの兄の同級生2人がやっている路上ミュージシャン「いきものがかり」に加入し現在に至るわけです。途中、吉岡さんは音楽大学のミュージカル専攻に進学したもののレッスンの厳しさに耐えかねて歌うこと自体へのモチベーションを失ってしまい1年ほど挫折状態にあった(その間いきものがかりの活動も中断した)、そんな時期を経ています。

後半は熊本県山鹿市立菊鹿中学校音楽部へ。部員は2人きりで、チェリーズというデュオとして歌っていました。

部活動でコンクールやコンテストがからむと妙にギスギスした部分を感じることもなくはないんですが、チェリーズは純粋無垢に音楽を楽しんでいました。その姿にアマチュアリズムの美点を見た思いがした一方で、せきは吉岡さんの歌い手としての歩みを重ね合わせ、2人の未来が少しばかり気にかかりました。

なお、あさって5月9日に、NHK総合とNHK教育で再放送があるそうです。