2022/7/17の日記:第12回東京六大学OB合唱連盟定期演奏会

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「OB六連」こと東京六大学OB合唱連盟の演奏会を聴いてきた。2018/8/11の第10回以来。

会場は東京芸術劇場コンサートホール。13時開演、16時少し前に終演。

出演者・スタッフ・来場者の皆様、お疲れ様でした。


隔年開催の演奏会なので本来なら2020年の第11回が間に挟まるはずなのだが、5/31に行われる予定だった新型コロナウイルスの影響で同年4月初めに中止され、欠番として扱われている。中止決定および今回の開催にこぎつけた顛末は、このたびの演奏会パンフレット28ページ「第11回中止から第12回開催に至る歩み」というタイトルの特集記事にまとめられている。

第11回で予定されていた演目は、立教大学グリークラブOB男声合唱団のWebサイトにある「東京六大学OB合唱連盟 演奏会史」で確認できる。東京大学音楽部OB合唱団アカデミカコールと法政大学アリオンコールOB会・男声合唱団オールアリオンは今回同じ楽曲を、慶應義塾ワグネル・ソサィエティーOB合唱団は第11回の曲目に1曲追加しての演奏。残り3団体は選曲、指揮者、ピアニストなどを一新。

そんなわけで演奏会のマネジメントも感染症対策のため従来とは異なることがいろいろ行われていた。無償配布のパンフレットは手渡しでなく入場者が各自でもってゆかせる。開演間際と休憩明け間際に感染症対策について仔細に影アナウンスが入る。終演後の時間差退席も影アナウンスでタイミングを指示。大ホール入り口には演奏会ポスターと一緒に「花束等の差し入れはお断りしております」「出演者との面会はご遠慮ください」という張り紙、ロビーには「できるだけ会話はお控えください。」という案内板が設置されていた。
「第12回 第12回東京六大学OB合唱連盟定期演奏会」案内看板
案内板「できるだけ会話はお控えください。」

なお、演奏会やイベントによっては入場者自らチケットの半券を箱などに入れさせることもみられるようになったが、このたびは従来同様に入場券をレセプショニストがもぎっていた。


第1ステージ:明治大学グリークラブOB会合唱団 駿河台倶楽部
男声合唱とピアノのための『新しい歌[改訂版]』
作詩:谷川俊太郎他
作曲:信長貴富
指揮:筑紫貴博
ピアノ:村田智佳子

東京芸術劇場大ホールで六連の現役合同により委嘱初演された曲集が、22年ちょっとの時を経て同じ会場で六連加盟団体のOBにより再演されることに私は感慨をおぼえるところ。

フィンガースナップやクラップが混じる曲があるため合唱団員一同が譜面台を使用。マスク着用で入場、演奏開始間際にマスクを外して譜面台に置き、ステージを終えるときマスク着用で退場。

歌うことをテーマにした曲集を取り上げたこととあいまってか、歌う喜びにあふれるさまが感じられた演奏。

ただテンポ感やビート感がいまひとつ共有しきれてないようで、テナー系(特にセカンド)は前のめって走る傾向、ベース系は遅れる傾向あり。

第2ステージ:法政大学アリオンコールOB会・男声合唱団オールアリオン
男声合唱と小鼓のための『美女打見れば(『梁塵秘抄』より)』
作曲:柴田南雄
指揮:蓮沼喜文
小鼓:福原千鶴

法政大学アリオンコール現役の委嘱作品。1993年(私が大学2年のとき)に六連で初演されたが、このたびの出演メンバーは初演前に卒業卒団した方々のみ。

柴田南雄が梁塵秘抄を題材に作曲した合唱曲は3作品ある。1作目は女声合唱と筝のための『秋来ぬと』、1作目は混声合唱と日本の横笛のための『春立つと』、3作目がこの『美女打見れば』。『秋来ぬと』は熟年・壮年、『春立つと』はご年配、『美女打見れば』はアリオン現役の委嘱ということで若人を意識して作曲された。ただ、齢を重ねた人による演奏もこれはこれで味わい深い。むしろ極めて端正かつ雅な演奏だったような印象。

終始マスク着用(指揮者は黒、合唱と小鼓は白)だが、それを感じさせないしっかりした響き。舞台を幅広く使った並び。

第3ステージ:早稲田大学グリークラブOB会・稲門グリークラブ
男声合唱とピアノのための組曲『夢の意味』
作詩:林望/作曲:上田真樹
指揮:小林昌司
ピアノ:前田勝則

早稲田大学グリークラブ現役が男声合唱版を委嘱・初演した組曲。第1曲「朝あけに」、私はオリジナルにあたる混声合唱版を昨年の暮れ「うたいびとの忘年会2021」という企画イベントで歌ったっけ。

入退場はマスク着用、歌唱時のみマスク外し。全楽章attacca。皆が同じ方向を向いた圧巻の演奏。ただ、個人的趣味として『夢の意味』にしては生々しさが強すぎる歌唱のように感じた。特に第3曲あたり。不織布マスク特有のmuteがかかった音色のほうが、どこか紗が掛かった表現として曲想に相応しいのではなかろうか。

作曲者ご臨席。

前田先生はタブレットの譜面を使用。譜めくりはタイマー操作かな。

第4ステージ:慶應義塾ワグネル・ソサィエティーOB合唱団
「Widmung(献呈)」
作詩:F.Rückert/作曲:R.Schumann/編曲:佐渡孝彦
指揮:吉川貴洋
ピアノ:黒澤美雪
「Nänie(哀悼歌)」
作詩:F.Schiller/作曲:J.Brahms/編曲:北村協一・吉川貴洋
指揮:吉川貴洋
ピアノ:黒澤美雪
オルガン:新山恵理

終始マスク着用なれど、マスクなしの演奏とほぼ遜色なし。きちんとした発声・発音・発語があってこそ。「Nänie」終盤、高揚するあたりでマスクの影響をほんの少し感じたけど、スタミナ的な事情によるところのほうが大きいのだろう。

「Nänie」は北村協一による男声合唱編曲に指揮者が補筆し、原曲の管弦楽を指揮者がピアノとオルガンに編曲した版。オルガンだとポリフォニックな書法が多用された合唱と相まって教会音楽的な色合いが増すように感じた。

余談。この指揮者は私の1学年先輩にあたる。吉川氏がワグネルの学生指揮者としてタクトを取った『ひたすらな道』『青いメッセージ』は、畑中良輔先生や北村協一先生によるステージに引けを取らない演奏で、今も鮮烈な印象が残っている。

第5ステージ:東京大学音楽部OB合唱団アカデミカコール
『ミサ曲 第2番 ト長調』
作曲:シャルル・グノー
指揮:酒井雅弘
オルガン:浅井美紀

入退場はマスク着用、歌唱時のみマスク外し。

『ミサ曲 第2番 ト長調』は東京大学音楽部OB合唱団アカデミカコールが半世紀近く愛唱するレパートリーの一つで、この曲をパリやアッシジで奉唱する演奏旅行を催したほど。2016年のパリ演奏会では作曲者の子孫が来聴したとのこと。

そのようなエピソードがパンフレットにつづられているのを読むと、楽曲に対する比類なき敬愛が感じられる丁寧な演奏のように感じられる。

第6ステージ:立教大学グリークラブOB男声合唱団
「美しき乙女たちへ」〜ルコント・ド・リールの詩によるフランス歌曲集〜
指揮:小森輝彦
ピアノ:三澤志保

一同が黒で揃えたマスクを着用、合唱のみ演奏時に外す。他団体の単独ステージではすべて白のマスク(おそらく不織布マスク)で出演していた。

立教大学グリークラブOB男声合唱団が小森輝彦氏をOB六連の指揮者として招聘することは早くから存じ上げていた。OB男声がフランス語作品を練習中であることも小耳に挟んでいたが、てっきりフランス語作品はグリーフェスティバルで歌うものと思い込んでいたので、それがOB六連の演目だと知ったときは驚いたものだ。小森氏について私にとってはドイツ語作品のイメージが強かったため。

演奏を聴くと、小森先生のご指導で一人一人の自発性が以前より解放されているが、生来のアンサンブル志向と音楽の世界観共有により、まとまりは損なわれず演奏の説得力が増したように感じた。日本の男声合唱においてレパートリーを広げるために様々作られてきた独唱曲を合唱に編曲したものを演奏するスタイルの一つといえるかも。

演目は下記の通り。テキストは全編ヴォーカリーズの「亜麻色の髪の乙女」を除き、全曲Leconte de Lisleによる。「亜麻色の髪の乙女」はピアノ曲だが、Leconte de Lisleの詩による着想で作曲されている。今回は男声合唱によるヴォーカリーズを加えた形での編曲。

  • 「Lydia」
    作曲:Gabriel Fauré/編曲:北村協一
  • 「Nell」
    作曲:Gabriel Fauré/編曲:北村協一
  • 「Nanny」
    作曲:Amédée-Ernest Chausson/編曲:Kyrstian Matthias Meyer(団内指揮者・前川和之先輩の筆名)
  • 「亜麻色の髪の乙女」
    作曲:Claude Achille Debussy/編曲:Kyrstian Matthias Meyer
  • 「Phidylé」
    作曲:Henri Duparc/編曲:北村協一
第7ステージ:東京六大学OB合唱連盟によるエール交換
  • 明治大学校歌(指揮:平成14年卒・筑紫貴博)
  • 法政大学校歌(指揮:昭和59年卒・貫井隆夫)
  • 早稲田大学校歌(指揮:昭和59年卒・笹原優樹)
  • 慶應義塾塾歌(指揮:昭和58年卒・須田和宏)
  • 東京大学の歌「大空と」(指揮:昭和53年卒・酒井雅弘)
  • 立教大学カレッジソング“St. Paul’s will shine tonight”(指揮:平成7年卒・渡辺亨)

第1回からの恒例であるエールの合同演奏。約160名がステージいっぱいに広がり、バルコニー席も使い、一同で六大学のエールを合唱。さすがに全員マスク着用で歌唱。法政はオレンジ色のマスク、立教は単独ステージと同じ黒マスクを着用。一階席で聴くと音圧とサラウンド効果に圧倒される。

指揮者(自校のエールを振る)が交代するとき従来は握手を交わしていたが、今回は腕タッチ。ただ、早稲田の演奏後、本来は慶應の指揮者と腕タッチするはずが間違って東大の指揮者が出てきてしまい、そのまま早・東で腕タッチというハプニング。早・慶の腕タッチなしで慶應のエールに続いた。


末筆ながら。先週うちに届いた立教大学グリークラブOB会報でOB男声の欄に「感想を読みたい」という一節があったのを読み、今更ながら演奏会リポートをブログに書くことにした次第。

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