カテゴリー: 鑑賞の感想

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2

I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その2

NHK学校音楽コンクール2010年度中学校の部の課題曲について書いた記事へアクセスいただく方が多いので、続編を書くことにします。

「I ♥ ×××」は「みんなのうた」との共同制作楽曲という扱いで、セルフカバー版が今年8・9月の「みんなのうた」で流れるとのこと。おそらく秋ごろにシングルカットされるのでしょう。

この記事は「I ♥ ×××」が「みんなのうた」で流れる時期に合わせて公開するつもりでしたが、いくつか思うところあって前倒ししました。

理由の一つは、この6月25日に作者・大塚愛さんがSUさん@RIP SLYMEとの入籍を発表したことです。ご結婚おめでとうございます。


ゴールデンウィークの特別番組

今年の4月29日および5月5日にNHK総合で放映された「Nコン2010スペシャル 合唱のちから」目玉の一つとして、「I ♥ ××× (アイ・ラヴ)」の、大塚愛さんによるセルフカバー版の初公開がなされました。こんなに早い時期にセルフカバーが発表されるのは初めてじゃないでしょうか。合唱版とほぼ同時進行でセルフカバー版も作られていたようで、レコーディングの模様がちらっと映っていました。せきは5月5日の再放送で聴きました。

セルフカバー版ライブの前に、大塚さんが女声3部合唱版の練習場を訪問した模様のVTRが流れていました。合唱版を聴いた大塚さんの感想は「映画みたい。ストーリーの流れがはっきりしてる」。指揮者・大谷研二氏は大塚さんを前に「ラララの部分はゴスペルっぽくやろうか。振り付けを入れてもいいね」と言ってましたね。そして、セルフカバー版「I ♥ ×××」のライブ映像を見たスペシャルゲストのアンジェラ・アキさんいわく「今までの課題曲と違う匂いがする。きっとみんな楽しんで歌えるんじゃないかな」と。

それ以外の番組の模様については「Nコンブログ〜NHK全国学校音楽コンクール合唱ファンブログ〜」『Nコン2010スペシャル「合唱のちから」、観ましたか?ちょこっとレビューを。』に「ちょこっと」なんてご謙遜というボリュームの詳細なリポートがあるので、本記事では割愛します。

合唱版とセルフカバー版の比較

セルフカバー版「I ♥ ×××」はオーソドックスなミディアムバラードです。「ボレロ」みたいにバックの楽器が徐々に加わってゆくことで高揚の幅が大きいアレンジになっています。後半で加わるコーラス隊に「Happy! Happy! Smileで!」と指示するあたりは大塚さんらしい演出だと思いました。

合唱版はなぜかセルフカバー版よりもポップス色の強さを感じさせます。また、単にハモり・掛け合いとピアノ伴奏を加えるのにとどまらない、上田真樹さん独自のアレンジがかなり加わっています。『最初から〜』で何度も歌詞を繰り返しながら転調するくだりが分かりやすいですね。最後にAmen終止(I – IV – I のコード進行)で「My Dream」と歌うのもセルフカバー版にはなく、これも編曲者による創意と思われます。

この曲がどんな形で編曲者のもとへ納品されたか、直接せきは存じません。ただ、大塚さんの別作品に関するインタビュー記事で『私はいつもピアノでコードを付けながら歌を入れて、それからアレンジを頼む』とあるので、今回もそんな感じで、少なくともコードネームを書き添えた歌詞カードと弾き語りデモテープが納品されたものと思われます。五線に起こした形のメロディ譜が渡されたかどうかまでは分かりません。


まだ書きたいことはあるんですが、ここまでで既に結構なボリューム。なおかつどう急いでもジューン・ブライドの6月中には全篇完成が間に合わないので、区切りのいいところまでで公開することにします。さらなる続きは今しばらくお待ちを。


2010年8月1日追記:さらなる続きを「I ♥ ×××(アイ・ラヴ)その3」として公開し、そこで楽曲が編曲者にどういう形で納品されたかについての補足を書きました。

2010/06/20の日記(その2)

2010/06/20の日記(その2)

第51回新潟県合唱祭についての記録「その1」の続きです。その1では出演者として、本記事では聴衆として書きます。

せきが拝聴したのは、東新潟中学校合唱部(この団だけロビーのスピーカーから。以降は客席にて)、女声コーラスみずばしょう、中条ふれあいコーラス、五泉市民合唱団、新潟ユース合唱団、新潟大学合唱団、女声合唱団「フェリーチェ」、レディースクワイヤJune、柏崎常盤高校合唱部、石山グリーンコーラス、しなのグリークラブ、小針中学校合唱部の計11団体です。

息の流れ、共鳴

新発田市民文化会館ってホールの響きが合唱をカバーしてくれないらしく、発声スキル(主としてブレスの流れや声の共鳴)が客席にもろに伝わってしまうのですね。東京都内の有名どころだと、すみだトリフォニーや紀尾井ホールあたりに通じる音響特性があります。

声の飛ぶ飛ばないは人数の多い少ないとは関係ありません。レディースクワイヤJuneはオンステ人数が一桁だったと思いますが、ちゃんと声が飛んでいました。

それを痛感したので、トルヴェールの事前ウォームアップは息の流れを作ることに重点を置いたわけでした。

[u]・ウ母音

全体講評で清水雅彦先生が日本人特有の浅い母音について指摘していましたが、せきは特にu・ウの難しさを感じました。

この母音で面白かったのは、シルバー系団体は息の流れが滞る傾向があるのに対し、中高生は浅すぎてウムラウトっぽく聞こえる傾向があること。

中学生は2団体ともNコン課題曲「I ♥ ×××」を取り上げていましたが、歌詞で多用されている英単語『you』の発音がやたら耳につきました。日本語もだけど、英単語として書かれている歌詞はカタカナ英語であろうとも日本語以上に意識して母音を深く作ったほうがいいと思いますね。

個々の団体について(出演順)

いくつかピックアップして。

新潟ユース合唱団。せきは昨年まで参加していた団です。昨年も取り上げたパレストリーナよりも、今年初めて取り組むラッススのほうが生き生きとした演奏だったのが不思議でした。それと、男声が音符一つ一つで毎回クレッシェンド→ディミニュエンドをしているように聴こえ、乗り物酔いしたみたいに感じました。声がいまいち飛んでいなかったという印象もあるので、ブレスコントロールの問題ではないでしょうか?

新潟大学合唱団。たぶん新年度に入ってから練習した曲だと思うんですが、なかなかの仕上がりっぷり。再来月のコンクールが期待できそうです。タクトを取った学生指揮者くん、もうちょっと堂々と振る舞ったほうがいいと思いますよ。

レディースクワイヤJune。次の土曜に定期演奏会というのに別の本番とは凄いですね。指揮者がプログラムに書いてあるお名前の団員さんから変更され、帰りの車中で「指揮者変更とはトルヴェールのお株を奪われたみたい」って話が出てました。なお、箕輪久夫先生は客席にてパンフレットで顔を覆いながら聴いておられました。

柏崎常盤高校合唱部。せきが会場入りしたとき屋外で練習していた団です。今年度から指導者が替わった模様。初音ミクをほうふつとさせるストレートな音色が印象的ですね。ただ、ソプラノの高音域は声楽的にちゃんとトレーニングしたほうがよいのではと思います。今の発声アプローチを続けてると咽喉に来そう。

客席のマナー

座席はかなり埋まってました。そのぶん、演奏が始まっても空席を求めてうろうろ動き回る方が結構いて目障りでした。ご年配の方に多かったかな。団体ごとの間が短いので演奏開始前に着席するのは難しかったのも分かりますが、演奏中は壁際に立ち目で空席を探すようにすれば移動が短時間で済むと思います。

1階席の前方・下手寄りにいた某学生団体の一同(あえて名前は伏せる)、出番というので荷物を置いたまま席を離れてました。空席を探す人が多かった状況だと、大勢で座席を長時間キープというのは非常に迷惑でした。荷物を持って移動するとか、せめて2階席の端っこみたいに人が来なさそうなところを陣取るとかしていただきたかったです。

という話を帰りの車中でしていたら、早くから会場入りしていたtree2氏いわく「午前中は子連れ客がいて、子どもが賑やかに騒いでいた」とのこと。うーむ……。

長岡市民合唱団 第25回定期演奏会

長岡市民合唱団 第25回定期演奏会

きのう午後は長岡リリックホールのコンサートホールに行き、長岡市民合唱団の定期演奏会を聴いてきました。


開演10分ほど前に現地到着。
近くの新潟県立近代美術館で開催中の「奈良の古寺と仏像」展と相まってか、駐車場が大混雑で、誘導員さんの指示で楽屋口近くに路上駐車しました。
客席も大入り満員。数少ない空きがあった上手側のバルコニー席で拝聴しました。

パンフレットに載っている合唱団員は、ソプラノ28名、アルト30名、テノール9名、バス10名。
ご年配の人が結構いらっしゃいます。
舞台の上手5分の1ぐらいが見えなかったのでオンステ実メンバーは数えませんでした。
テノールのメンバーにはチーフトレーナー・山本義人氏の名前も。

混声四部合唱組曲「確かなものを」

全体に、発声やピッチはきちんとしていると思います。男声パートの少なさをあまり感じさせないパートバランスもなかなかなものです。

ただ、このステージは、高田三郎作品(高は正式にはハシゴ高)ならではのストイックさや内なる苦闘が感じられませんでした。残念。
技術的なことを言うと、語頭の子音が立たず歌詞が聞き取りづらい部分が多いし、フレーズの終わりが全体にブツ切れだし、命令形・疑問形の文章や「立ちすくむ」「うずくまる」「倒れる」などの語句も特別な表現上の工夫をしてるようには聞こえませんでした。

これは主に指揮者・船橋洋介氏の問題だろうと思います。高田作品には押さえるべきポイントがいろいろとあるのです。

パーカッション ミュージアムによるステージ

パーカッション ミュージアムは、読売日本交響楽団元首席ティンパニ奏者・菅原淳氏および菅原門下のプロ打楽器奏者による演奏家集団です。
メンバー十数名のうち、今回のコンサートに出演したのは10名。

前半で演奏されたのは、メンバー・横田大司氏の作曲による「白紙の一幕」。竹と膜質楽器(いわゆる太鼓。スネアドラム、大太鼓、タムタムなど)をフィーチャーした現代音楽系の曲です。
竹を叩く音は獅子おどしの響きにつながり、日本人になじみ深いサウンドです。その余韻に膜質楽器がからみあい、徐々に増殖していく感じ。

楽器の入れ替えの間、船橋洋介氏らしき人(違ったらごめんなさい)が登場して楽器紹介などのスピーチ。

後半は、菅原氏(本日はいらっしゃいませんでした引退された由)編曲による『「ウエストサイドストーリー」による4つのシーン』。
マリンバやシロフォンなどの鍵盤打楽器がメロディを奏でる中、多種多様な打楽器が賑やかに活躍する、痛快な曲です。変わったところでは、フライパン、ブリキのバケツ、ホイッスル、手回しサイレン、自転車や古い自動車で使われるパフパフ式の警笛なども登場します。

ここまでの演奏が終了後、メンバー一同がステージ前方に並び、一礼。
東京混声合唱団や栗友会などとの共演で合唱人にも馴染みのある加藤恭子氏(違ったらごめんなさい)がマイクを取って、ステージアンコールを案内しました。

ステージアンコール曲目は、メキシコ民謡「Mexican Hat Dance」。
1台のデカいマリンバを5人が囲んで演奏する編曲です。
途中、マリンバの位置が少しずつ舞台下手寄りへ移動していったり、演奏者の立ち位置争いがあったりなどの演出も加わり、目に耳に楽しいものでした。

CATULLI CARMINA

Carl Orff作曲。かの有名な世俗カンタータ「CARMINA BURANA」の兄弟作品です。

演奏会ポスター・チラシ・パンフレットとも、この曲の題名を前面に出したデザインでした。

今回の編成は、合唱、テノール独唱、ソプラノ独唱、2台ピアノ、鍵盤打楽器やティンパニーなどの打楽器。
打楽器奏者は7名だか8名だか。
2台ピアノが合唱と共演する場合、ピアノを横方向に互い違いに向き合わせる配置が一般的だと思うのですが、今回は2台ともピアニストが客席を向く配置でした。
ソプラノ独唱はバルコニー席の舞台真上を出たり入ったりしてました。

で、肝心の演奏ですが、お見事。
長大で、合唱は馴染みの薄いラテン語を早口で連呼し、無伴奏の箇所も多く、時々幅広い音域で和音を奏でるという、いろいろと難儀な曲なので、なおさら拍手です。

混声六連や関混連のような大人数、単独だと東京工業大学コールクライネスあたりが取り上げたら面白い曲かもしれません。

アンコールも演奏されました。
確か「CARMINA BURANA」の「O Fortuna」。原曲の管弦楽パートは2台ピアノ+打楽器にリダクションされてました。打楽器パートは原曲通りとのこと。
冒頭のソプラノ独唱で破綻しかけた瞬間がありました。あそこは超高音、プロでも歌いこなせる人は少ないのかも。


出演者・スタッフ・来場者の皆様、長時間お疲れ様でした。トータルとして楽しかったです。

リリックのシアターホールでは夕方からゴスペル混声アンサンブルの演奏会がありましたが、こちらは失礼して帰宅。


※2010/5/15 12:50追記

ふくだんちょう様からコメント欄でいただいた指摘をもとに、若干の加筆修正をしました。
発表! Nコン2010課題曲

発表! Nコン2010課題曲

本日午前中にNHK教育テレビで放映された「発表! Nコン2010課題曲」を視聴しました。

かつては合唱団の参考演奏と、作詞者による詩の朗読と、作詞者・作曲者・指揮者によるメモや演奏上のポイントを流す番組だったのですが、昨年からは様々な情報を取り込んでバラエティ色を帯びた番組になってます。

作者コメントのボリュームが減ったのは、ポジティブに深読みすれば「そういうことは演奏者自身で答えを探そう」というメッセージがこもっているのかもしれません。

番組内で取り上げられた情報の中では、浄書譜作成のプロセスと、フリー参加・フリー部門(自由曲だけor課題曲だけ歌える、人数制限オーバーでも可)の紹介が印象に残りました。

課題曲については長くなるので別々のエントリにまとめました。

Nコン2010 – いのちのいっちょうめ

Nコン2010 – いのちのいっちょうめ

第77回NHK全校学校音楽コンクール小学校の部の課題曲について。

司会者兼リポーター・パックンマックンのパックンが練習を見学するところで、譜面を見て、8分の12拍子に驚いていました。

確かに8分の12拍子は馴染みが薄いし、少なくとも小学校の指導要領では扱わないことになっている拍子のような気がしますが、付点4分音符1拍の4拍子ととらえればどうってことはありません。

また、パックンがNHK東京児童合唱団に交じって最初に歌った時、小学生の団員からリズム感の悪さを指摘され、歌詞「LA」ばかりで歌わされていました。

8分の12拍子の1拍にあたる付点4分音符は8分音符3つずつに細分化されます。3連符系のリズムに乗ってインテンポを保つのはなかなか難しいもので、それなりにトレーニングが必要なことが見ていて伝わってきました。

作者コメント

作詞者:里乃塚玲央氏
  • 「小学生は命の王様」
  • 「小学生が楽しく歌える詩を心掛けた」
作曲者:横山裕美子氏
  • 「詩を先にいただいて作曲した」
  • 「作曲に当たっては、詩のわくわくどきどき感を生かした」

曲全体に関するせきの感想

いろんなレベルで味わえる、素晴らしい曲ですね。気軽にも歌えるし、その気になればいくらでも突き詰めた音楽づくりができる。

突き詰めた音楽づくりをしたい場合、移り変わる情景一コマ一コマを歌い分ける幅広い表現力が要求されそうに見受けられます。表現力が問われるポイントをひとつ端的に挙げるなら、曲の途中で符頭が×で表記されている箇所の扱い。

昨年の全国大会を見ている限りだと、多くの学校が取り上げた「風と人のオペラ」表題曲で特に、この幅広い表現力に難を感じた団ばかりだったような印象があるので(主として指揮者の問題かな?)、今回の課題曲はいい勉強になるのではと感じました。