小千谷市民オペラ2022「カルメン」についての覚書、「その1」の続きです。ようやく練習の話に入ります。
2021年5月23日を初回に、約1年がかりで合唱練習は行われました。合唱指導は、公演監督にしてエスカミーリョ役で出演した品田広希先生が務めました。
合唱練習は当初、日曜・月曜の2日連続を月1回というペースで進められました。日曜は年明けあたりまで、14時半頃まで児童合唱、入れ替わりに14時40分から17時まで大人というスケジュールでした。月曜は大人だけで18時過ぎから21時頃まで行われ、当初は日曜日のおさらいということになっていました。
ペース変更が生じたのは8月から。もともと8月の練習予定日は29・30日だけだったところ、7月18・19日になって「8月6・7日を追加する」ことがアナウンスされました。ところが、8月7日に予定されていた練習は新型コロナウイルスの影響で当日午前中に中止が決まり、2か月の中断を余儀なくされました。この辺の話は2022年1月3日付け投稿「2021年のMY合唱ライフまとめ」で触れているので、そちらを。
「カルメン」の合唱パートって易しいとは言い難いのですよね。主旋律やハーモニーは美しいのですが、音の配置や主旋律以外のパート進行がかなり器楽的で歌いづらいところが散見されます。難易度はご存じベートーヴェン「交響曲第9番」第4楽章に匹敵するのではと個人的には思います。「ビゼーの楽曲一覧 – Wikipedia」によるとGeorges Bizetは16曲ほど合唱曲を残したものの(未完成に終わったカンタータ5曲を含む)、現在ほぼ取り上げられていないようで、正直むべなるかなという感じがします。
小千谷市民オペラ合唱団では、合唱経験ゼロな人や楽譜が読めない人でもOKということを参加要項に盛り込んでいただけあり、誰もがドロップアウトせずについてゆけるようにという懇切丁寧な配慮が満載で、そのために品田先生は途方もなく手間暇を割いてくださいました。品田先生による範唱を録音したピアノ伴奏つき音取り補助CDがパートごとに作られて配られたり、フランス語歌詞の発音をカタカナ表記したプリントが配られたり(鼻母音はカナの上に「〜」の線が引かれていた)、音取りおよび歌詞のリズム読みの順序が手ほどきされたり、練習がない日でも30分単位で個人レッスンもしくは同一パート2〜3名程度によるグループレッスンの場が用意されていたり。加えて、練習スケジュールが急遽変更になったときなどは先生御自ら団員一人一人に電話をかけて連絡してくださったり。
音取りは1曲につき1週(連続する2日)ないし2週というペースで進められ、復習を繰り返しながらも年末の時点で9割ほどの音取りが完了しました。
音取り・歌詞つけの練習は口移しによる聞き覚え方式で進められました。ただ私は音取りをしやすくするための自助努力もしました。他団体に参加するときもやっている、階名をふるとか、自分が出す音とオクターブになる他パートの箇所をマーカー(いわゆる蛍光ペン)で塗る(あるパートが長く伸ばしていて、自分は細かく動いていて、長く伸ばすパートの一部に対し半拍とかだけユニゾンになるような場合、音符を枠で囲むよりもマーカーで塗るほうが都合がよいので)とか、入りの音をどこから拾えばよいか印をつけるとかいうことは当然「カルメン」でも行いました。フランス語については、最初は配られたカタカナ表記を手掛かりに、もともと何となく把握していた綴りと発音との関連性を思い出しながら発音をさらっていましたが、途中からIPAの発音記号を調べて譜面の余白に書き込みました。
ところで、このたび使われたのはAlkor版のヴォーカルスコアでした。この譜面ではドイツ語詞とフランス語詞が上下に並び、上に記されたドイツ語詞は普通の活字体、その下にフランス語詞が一回り小さいイタリック体で印刷されています。歌うのはフランス語なのに、そのままだとドイツ語詞が目に飛び込んでしまい具合が悪かったので、フランス語詞をマーカーで強調しました。また、器楽や独唱により曲が始まってからしばらく経って合唱が始まるような曲が結構あり、譜面を遡らないと何拍子で歌うか分かりにくいところがあったため、各ページに拍子をメモしたりもしました。
Alkor版のヴォーカルスコアには、作曲者によるオリジナル版とエルネスト・ギロー(Ernest Guiraud)による加筆版が1ページおきに並置される箇所があって、しかもその近辺にカットが混じったりしたので、そういう箇所についてしばらくは譜面を目で追いかけるのに悪戦苦闘したものです。
品田先生の歌唱指導は単純明快なものです。頭声発声(という術語はお使いになりませんでしたが)重視。加えて、高い音を出すときほどしっかり発語しようとも繰り返してました。私が理解したところを言い換えると、遠く離れた聴衆にも歌詞が聞き取りやすいように発音や言葉のさばき方を意識して明瞭化しようという意味であろうと思います。
あと、基本的に「褒めて伸ばす」スタンスでいらっしゃいました。外国語歌唱経験の乏しい人が少なくない中、少しでも合唱団員のモチベーションを高く維持しようという配慮なんでしょうね。合唱経験者向けに釘をさすことも時々ありましたが、さりげない言い方でした。
プロジェクト実現および成功に向け品田先生がどれだけ熱意を注ぎ込んだかは、テレビや新聞などで報じられた通りなのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。プロジェクトにはご家族一同でかかわっておられました。
品田先生は、5年ほど前に長岡リリックホールで上演されたオペラ「てかがみ」に現代パートの会場係として出演し、本番後の合唱団打ち上げにも来て下さったりもしました。このとき私も合唱団の一員として出ていたので接点はあったものの、カルメン初回練習の自己紹介ではそこらへんに全く触れず、そのためかしばらく私のことは「あれ、どこかで見たような……」と思っておられたようです。感染症対策で練習が中断する少し前、男女別々の部屋で練習するときがあり、そこで男声練習を担当した先生の奥様に「てかがみ」のことをちらっと話したところ、それをきっかけに思い出していただけた様子でした。
書き忘れるところでした。初回練習の自己紹介では初対面の人ばかりだったのですが、2022年1月3日付け投稿「2021年のMY合唱ライフまとめ」でも触れたとおり、「てかがみ」やデメテル・コロディアでご一緒した人がいることが後日わかりました。
公募企画合唱団に参加することが何年かにいっぺんくらいの頻度であります。多種多様なバックボーンを持った人が集まると、これまでの合唱経験では接することのなかったようなメンバーもいらっしゃり、己が凝り固まっていることが実感できて刺激的です。たとえば今回だと「自分は楽譜が読めないから、その説明だと分からない」と発言する方がいて、その堂々たる姿を初めて目にしたときは新鮮さを感じました。もちろん入団テストやオーディションはなく音楽についての知識や経験は不問だったので参加資格的に問題はなく、品田先生もそうかそうかという感じで普通に対応しておられました。
稽古ピアニストは、小林とし子先生と、かごしまけいこ先生のお二方。
とし子先生はウォームアップとして各自で身体をほぐす際、時節に即した曲をアドリブで弾き、場の空気を和ませてくださいました。年が明けて演出が加わるようになると、練習の模様を動画で撮影してくださったりもしました。
かごしま先生とは共通の音楽仲間が何名もいるのでかねてから存じ上げてはいましたが、直接ご一緒するのは初めて。その音楽仲間には合唱団Lalariのメンバーもいます。ただ私が合唱団Lalariで歌っていることはご存じでなく(「直江の婿えらび」に出たことはご存じでした)、カルメン終演後に合唱団LalariのFacebookページに投稿されたネット配信の告知で初めて存在を認識したそうです。
12月26日に小千谷市文化会館で「アフタークリスマスコンサート」が開催されました。小千谷コミュニティーオペラ合唱団が有志として出演し、「カルメン」練習成果の中間発表を兼ねて「鐘が鳴ったぜ」「ハバネラ」「闘牛士の歌」を歌いました。
今日の演目と出演者。
(合唱団は出番のとき口頭で紹介される模様) pic.twitter.com/r46jKVFwOh— せき (@chor16seki) December 26, 2021
本番前の控室で、小千谷コミュニティーオペラ合唱団のメンバーによるLINEグループが開設されました。参加は任意という扱いだったものの、練習が佳境に入ると連絡や情報交換の場として活用されるようになりました。ここで事務局と合唱団員の橋渡し役を務めてくださったのが、とし子先生でした。
この日は大雪で、出演予定だったものの会場までの移動が困難なためやむなく出演をキャンセルしたメンバーが若干名いらっしゃいました。翌日の夜に予定されていた練習も天候や路面を考慮して中止が決まり、このステージが2021年の歌い納めとなりました。