北村協一先生にまつわる思い出 (5): 腰式呼吸
今回初めてサブタイトルを付けました。「腰式呼吸」はせきの造語です。
なお、記事群「北村協一先生にまつわる思い出」を通して読みたい方は、タグ「北村協一」からどうぞ。
「合唱アンサンブル.com」の中の人のメモランダム。当ブログの記事はあくまで私的発言で、係わりある団体や組織の見解を代表するものに非ず。
今回初めてサブタイトルを付けました。「腰式呼吸」はせきの造語です。
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このブログで時々記しているが、私せきは立教大学グリークラブ出身、平成8年(1996年)卒団の代である。その現役時代に起きた出来事を書き留めておく。
1/16の男声合唱団トルヴェール練習の前、万代シテイのヤマハに寄って合唱の楽譜をパラパラと眺めた。
そのうちの1冊、千原英喜氏の近作「混声合唱のための コスミック・エレジー」。草野心平氏の詩に邦楽やブルースなどのエッセンスを取り込んで作曲したユニークな組曲である。その第1曲が「さようなら一万年」と「原子」という2篇の詩を抜粋して組み合わせたテキストなのを見て、驚いて声をあげそうになった。
複数の文学作品のコラージュに作曲した合唱曲自体はそんなに珍しいものではない。有名なところでは、新実徳英氏によるNコン課題曲「生きる」や新実氏作曲の組曲「花に寄せて」あたりが挙げられよう。
だが、こういう形で自作に作曲されることを嫌う詩人もいる。草野心平氏がそのおひとり。草野氏は生前、多田武彦氏に「作曲者の都合で詩を抜粋・改変することは許せない」と漏らしておられたという。
草野氏逝去から8年たった1996年、雪の風景を描いた氏の詩群をテキストに、荻久保和明氏が「幻の雪」という無伴奏男声合唱組曲を書いた。第4曲は3つの詩のコラージュをテキストとするが、伝え聞くところによると、詩人の著作権継承者がこれにクレームをつけ、しばらく再演できない時期があったらしい(あくまでも伝聞ゆえ真偽の裏取りはしていない)。ちなみにせきは「幻の雪」について、JAMCA合同演奏での初演と、東西四連合同演奏での再演を聴いた。
そんなことが頭にあったものだから、千原氏の「さようなら一万年」を詩人の著作権継承者が出版許可したことに驚いた次第。
まあ、高嶋みどり氏が草野氏の詩に作曲した「青いメッセージ」も、終曲で2つの詩を組み合わせていて、それで出版されているわけで(片方の詩「春殖」は「る」の繰り返しなので、テキストを知らない人には詩でなくヴォーカリーズと思われかねないのですが)。
「合唱アンサンブル.com」サイト本体を更新しました。更新内容は次の通りです。
今回の出版を告知する編曲者・松平敬氏のブログ記事「[出版] 廣瀬量平(松平敬編曲)《海の詩》男声合唱版 – KLANG weblog」に以下の記述があります。
1曲目「海はなかった」は1975年のNHK合唱コンクールのために作曲されているので、ご存知の方も多いと思いますが、この曲のみ男声合唱版、女声合唱版が発表され、残りの曲に関しては一部編曲の試みが行われていたようです
いちおう、廣瀬量平氏ご本人も男声合唱版を全編書き揃えていた模様です。『法政大学アリオンコール70年史』という冊子に、同団が組曲全楽章を法関交歓演奏会の学生指揮者ステージで取り上げたことが記載されています。
なぜか廣瀬氏は自らが編曲したことを失念なさったらしく、また恐らくは作曲者のもとにその譜面が一部しか残っていなかったことから、ある時期以降に廣瀬氏のマネージメントスタッフに問い合わせると『残りの曲に関しては一部編曲の試みが行われていたようです』という返答になったものと思われます。これが正しければ、楽譜管理の観点から遺憾なことです。
そんなわけで、本サイトでは、男声合唱版「海の詩」について、このたび出版された松平氏によるトランスクリプションと、作曲者ご本人による未出版のトランスクリプションの2バージョンが存在するものとして扱います。
作曲者ご本人による男声合唱版「海の詩」を委嘱初演した鹿児島大学男声合唱団フロイデコールと法政大学アリオンコールは、愛唱曲「あつい涙」を媒介に、関西大学グリークラブ経由でのつながりがあります(詳細は鹿児島大学男声合唱団フロイデ・コール公式サイト内「あつい涙フォーラム」を参照)。あくまでも憶測レベルですが、男声合唱版「海の詩」も同じルートで楽譜が渡されたのかもという可能性が浮かびます。
作曲家 廣瀬量平(広瀬量平)事務所公式ページの『「海の詩」編曲版について、廣瀬量平事務所からのお知らせ』によると、廣瀬氏のトランスクリプションではピアノパートを書き換えることはありえないし、『「シーラカンス」の図形譜の扱いには、廣瀬自身が難渋していた事実があり、この部分についても廣瀬が編曲、発表したということはありません』なのだそうです。
廣瀬量平事務所による説明通りならば、鹿児島大学男声合唱団フロイデコールが初演したという男声版は、別の人によるトランスクリプトなのに編曲者名が表記されなかったとか、一部の曲しか書かなかったのものを全曲演奏したかのように表記したか、いずれにせよ『法政大学アリオンコール70年史』もしくはそれが依拠した文書の間違いということになります。
真相やいかに。
慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団の公式サイトに「演奏資料館」というコーナーがあります。過去の演奏をReal Playerで聴けるというもので、日本国内の合唱団サイトが公開している音源アーカイブとしては最大規模ということもあり、男声合唱ファンを中心に広く知られた存在です。
その「演奏資料館」について、最近「四連」「六連」の高音質版ページから音源ファイルのリンクが外されました。http応答ヘッダなどを見ると、どうも今月2日頃にリンク外しの作業が行われたようです。余談ながら、リンク外しの副作用で、曲目リストが中途半端に削除されてめちゃめちゃな状態になっています。
よほど問い合わせが多かったのか、何日か経って、サイトのトップページに下記の断り書きが載りました。
2010/8/12
■ 「演奏資料館」掲載内容に関するご案内 ■
現在、当団の「演奏資料館」につきましては、これまでにお寄せ頂いておりましたご要望に基づき、リニューアルに向けた掲載内容の企画検討を
進めております。検索性能の向上、著作権を始めとした各権利関係の見直し、さらなるコンテンツの充実 等、これまで以上にご利用頂きやすいホームページ環境を目指して参ります。今回の集中メンテナンスに伴い、現段階で掲載の検討段階にあるものは敢えてリンクを外す等の措置を
講じさせて頂いております。ご利用されておられる方には大変ご不便をおかけすることとなり誠に申し訳ございません。何卒上記リニューアルの趣旨に対するご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。なお現在作業中につきリンクの外れている演奏曲目につきましては掲載の確認が取れ次第、これまで通り掲載を予定しておりますので、今しばらくお待ち下さいますよう、重ねてお願いを申し上げます。また、リニューアル時期に関するご案内は改めてこの場でご報告させて頂きたいと存じます。
注目ポイントは『著作権を始めとした各権利関係の見直し』です。恐らく、著作権そのものというより「著作隣接権」の、主に譲渡権や送信可能化権あたりが問題になっているのでしょう。端的に言えば、四連や六連のような合同演奏会についてワグネルファミリーが演奏に参加していないステージの音源を慶應ワグネルが公開してOKか否かという話と思われます。
この件はかなり前から意識されていたらしく、音源ファイルのリンクが残っているダイアルアップ版「四連」「六連」ページの一覧表右肩に「演奏著作権の許諾申請中」という断り書きが、確か何年も前から付いています。
ただ、その割に「OB合唱団」についてはワグネル外の団の音源も公開され続けているのが引っ掛かるところです。
わが素人考えでは各団(大学合唱団の場合は現役およびOBOG会)から許諾を得れば音源公開にまつわる権利関係はクリアできそうな感じがしますけど、他に何かせきの気づいてない要素があるのかもしれないとも思います。
ともあれ「演奏資料館」の膨大な音源アーカイブは合唱界の財産といえます。今までの規模を維持もしくは拡大する形で決着がつくといいですね。